Mac World Expo Tokyo 2000 Report (5)
最終更新 2000/06/04
このページには Mac World Expo Tokyo 2000 についての個人的なレポートを掲載しています。
この情報はあくまでも私個人の感じたレポートです。これが絶対正しいとは限りません。みなさん個人の価値観で判断して下さい。特に極秘情報などは書きません。(知りません。(^^;))公開された情報だけです。
また、ほめたり、苦言を呈したりしていますが、何ら利害関係はありません。ただ、少しでも良くなって欲しいと期待しているだけです。
Gentle Migration
- これはゆっくりした移行を意味します。確かにOSレベルでは一気にMac OS Xへ移行するわけですが、「パソコンはソフト無ければただの箱」という言葉の通り、対応アプリケーションが無ければOSは成り立ちません。Windows NT、特にWindows 2000ではWindows95/98対応アプリケーションの多くがが動作しないのです。Windows NT/2000の苦戦はそこに原因があるのです。ですから、アップルはアプリケーションにはゆっくりした移行をしてもらえるような仕組みを用意したのでしょう。私がMac OS Xで最も感心したのはここであり、1月のSan Fransisco Expoの発表をいろいろなメディアで見聞きしていたにも関わらず勘違いしてしまっていたことを痛感したポイントがここなのです。
- これはMac OS Xにあまり興味を持ってこなかった私に原因の大部分があるのですが、アップルが次世代Mac OSの計画をころころ変えたことにも原因があると思います。元々の次世代Mac OSは「Copland」という名前でしたが開発途中で放棄されました。そして、仕切り直しされて発表されたのが「Rhapsody」です。しかし、この「Rhapsody」もMac OSとの互換性が低くソフトハウスに受け入れられず、次世代Mac OSになりませんでした。この「Rhapsody」の名称を変更し改良したもの、というか、製品版が「Mac OS X Server」です。つまり、「Copland」を除いても「Rhapsody」、「Mac OS X Server」、そして、「Mac OS X」と短期間に変化したわけです。こういうゴタゴタに嫌気をさして私はMac OS Xへの興味を失っていたわけです。まあ、アップルにしてみれば「Copland」で頓挫した次世代Mac OSを復活させるためマーケットの意見に耳を傾け、改良をはかっていたわけなので責めるのは筋違いとは思います。ただ、私のようなオールドユーザには「Copland」の失敗がトラウマになっているので厳しく感じてしまうのです。
- さて、話を戻しましょう。Mac OS Xで大きく変化したのはMac OSとの互換性です。Mac OS X ServerではMac OSアプリケーションはBlueBoxというエミュレータの中で動作しています。アップルはかつてMacintoshのCPUを680x0 からPowerPCに切り替える際に素晴らしいエミュレーションを実現しています。これはコンピュータ業界の歴史に残る快挙だと思いますが、それに比べてMac OS X Serverのエミュレーションはお粗末のようです。アップル自身がBlueBoxの使用を推奨していないほどですから。私はこれにがっかりしていたのです。アップルはMac OSを捨て、OPENSTEPというUNIXを次世代Mac OSと位置付けていると思いました。そして、WindowsNTの二の舞をしようとしていると思ったわけです。
- しかし、アップルはソフトハウスやMacintoshコミュニティーの声に耳を傾けたようです。Mac OS XではBlueBox環境が廃止され、代りにClassicとCarbonが加わりました。YellowBoxというOPENSTEP環境はJavaと統合されCocoaとなりました。この部分はデベロッパー向けには詳しく説明されているのでしょうが、私のような素人にはよくわかりません。Macintosh情報誌の記事も各誌まちまちで何が正しいのかよくわかりません。少し難しい話しなので私は今まで触れてこなかったのですが、推測を交えて踏み込んで書いてみたいと思います。もちろん、私は専門家ではないので誤りがあると思われますので鵜呑みにはしないで下さい。
- 先ほどBlueBox環境とかOPENSTEP環境と書きましたが、この「環境」とはAPIのことです。APIとはアピとかエー・ピー・アイと呼ばれるもので、Application Program Interfaceの略です。Mac OSではToolboxというものがAPIにあたります。簡単に言えばアプリケーションと画像描画エンジンやOSのコアの橋渡しをするブロックで、アプリケーションはこのAPIに準拠していなければOS上で動作できないわけです。
- さて、アップルはDarwinというコアの上に3種類の画像描画エンジンを用意し、その上に3つのAPIを用意しました。まず、良く話題になるCarbon(カーボン)から説明しましょう。Carbon APIはMac OS 9から採用された新しいAPIです。Toolboxの命令セットのうち70〜80%はそのまま残し、ほとんど使われない古いセットを削除し、Mac OS Xで使われる新しい命令セットを加えてできあがったのがCarbon APIです。アップルによれば20〜30%もの命令セットを削除したといっても実際にそれを使っている割合は少ないのでCarbon APIに対応するようにアプリケーションを改定するのは難しいことではないそうです。
- このCarbon APIはMac OS 9.xとMac OS Xの両方に実装されるのですが、当然コアや画像描画エンジンがそれぞれ異なりますから同じものではありません。あくまでもCarbonはMac OS XのDarwinというコアとその上の3つの画像描画エンジン用のAPIです。ですから、Mac OS 9.xのCarbonはMac OS X用に追加された命令セットのMac OS版であるCarbonLibというToolbox APIへの追加ライブラリ(機能拡張書類)であるようです。そして、Carbon上で動くアプリケーションは当然ですが何も修正することなしにMac OS XでもMac OS 9.xでも動作するのです。つまり、ソフトハウスはCarbon対応のアプリケーションを開発すればMac OS Xだけでなく、Mac OS 9.xユーザまで獲得できるわけです。今のところCarbon対応のアプリケーションはありませんが、Mac OS Xの登場と共にメジャーなアプリケーションはほとんどCarbon化されるようです。
- 余談ですが、CarbonアプリケーションはMac OS 8.1以上のPower Macintoshであれば動作するそうです。これはアップルの許可によりソフトハウスはアプリケーションにCarbonLibを同梱できるからです。Mac OS 9.xのToolboxだけでなく、Mac OS 8.1以上のToolboxにCarbonLibは追加可能なわけです。ソフトハウスはこれまで同じように大きな負担なくMac OSユーザへもアプリケーションを供給し続けることができるのです。以前のように68kアプリケーションとPowerPCアプリケーション、両用のFat Binaryアプリケーションというように複数を開発する必要はありません。アップルはこのように大幅にソフトハウスに歩み寄っています。
- また、先ほど「Carbon上で動くアプリケーションは何も修正することなしにMac OS 9.xでも動作する」と書きましたが、コア部分はMac OSのままですからDarwinの持つ堅固なメモリ管理は使えません。念のため。
- さて、次にClassicについて説明しましょう。どうもMacintoshコミュニティではCarbonがクローズアップされ過ぎてきたようです。ですから、私のような誤解をしている人が多くでてきたのでしょう。このClassicはMac OS互換のAPIでToolboxと同じ役割をするものです。ただ、OSのコア部分がDarwinという別物なので当然Toolboxそのものではありません。私はこれまでMac OS X=UNIX(OPENSTEP)+MAE(Macintosh Application Environment)と思っていました。MAEはUNIX上でMac OSの68k環境をエミュレーションするソフトでした。いろいろなメディアにはClassicはかつてのBlue Boxにあたり、Mac OSのエミュレーション環境であると紹介されていました。そして、Blue Boxはアップルですら使用を推奨できないほど出来が悪く、さらに、Blue Box使用時には画面が全てエミュレータで覆われてしまい、Yellow Box環境は操作できないと書かれていたように思います。私はそれを信じ込んでいました。もちろん、開発中の製品ですから情報が二転三転することは当然なので、それを責めることはできません。むやみに信じ込んだ私が悪かったのです。
- では、実際のところClassicとは何なのでしょうか。ClassicではMac OSアプリケーションがそのまま動作します。Carbon化していないMac OSのToolbox API対応のままで動作するのです。さて、ClassicはBlue Boxと同じようにMac OSのエミュレーション環境でしょうか。Macintosh情報誌にはエミュレーション環境ではないと書かれていたりします。
- 「百聞は一見にしかず」です。私は驚きの声をあげてしまいました。Mr. JobsのデモではマイクロソフトExcel98が素早く動作していました。もちろん、最速のPower Macintosh G4 500MHzで行われていたデモなのでしょうが、速すぎるほどの動きでした。見た目はMac OSで見なれたExcel98そのものです。そして、Carbonアプリケーションとの切り替えもシームレスで気がつかないほどです。つまり、全てがMac OSの画面で覆われているわけではないのです。空いている部分にはMac OS Xの画面がそのまま表示されています。そして、Excel98のウィンドウしか表示されていないのです。これはエミュレーションではないことを意味しています。Mac OSのデスクトップが存在しないわけですから。ハードディスクのアイコンもゴミ箱アイコンも無かったのです。エミュレーションではなくMac OSアプリケーション(Classicアプリケーション)が動作するとは……。アップルはまた素晴らしい仕事をしてくれたわけです。
- ここに「Single OS Strategy」の核心があるのです。Mac OS XはMac OSを中に完全に取り込む事に成功したようです。ですから、Mac OSは不要になったのでしょう。Mac OS XのClassic APIでその代用ができる確信が持てたのでMr. Jobsは「Single OS Strategy」を宣言したのでしょう。私はこのデモを見てMac OS XがWindowsNTの二の舞にはならないことを確信しました。
- さて、Classicでのアプリケーションの動作はMac OS上と同じです。見た目もプラチナのままで、ダイアログボックスも見なれたMac OSのものです。Mac OS XのNew FinderからClassicアプリケーションを起動できるわけで、Mac OS Xのシステムを使いながらMac OSアプリケーションを動作させているのです。実際のファイル削除などはデモで見れませんでしたがメニューからはMac OSと同じような操作で削除できるようです。ゴミ箱へのドラッグ&ドラッグで削除できるかはわかりませんでした。ただ、そのままドックにも格納されていましたからMac OS Xとはシームレスにつながっていると思われます。
- 最後はCocoaです。CocoaはNeXT社が開発したOPENSTEPというUNIX環境そのものです。かつてはYellow Boxと呼ばれていました。アップルはこれをMac OS Xの本命にしたいようですが、うまくいくでしょうか。デモではCocoaアプリケーションとしてアップルが開発中のEメールソフトが紹介されました。PDFベースのQuartsをフルに活用してPDFグラフィックなどをドラッグ&ドロップでメール本文に張り付けることができます。メールの管理ウィンドウもユニークで左右に引き出しのようにせり出してきます。なかなか面白いソフトで会場からも歓声がわき起こっていましたが、メールソフトは相手側との互換性が重要ですから使い物になるまでは時間が必要でしょう。
- NeXT社が開発したUNIX環境(OPENSTEP)用のアプリケーションは既にあるので、それらがMac OS Xでも使えるようになるはずです。アップルはNeXT社を買収したわけですからNeXT社のユーザやデベッロッパを再びサポートすることは評価に値します。買収した企業から美味しい所だけを搾り取って後は捨て去るという一般的な企業買収とは異なるからです。これにはNeXT社のCEOのMr. JobsがアップルのCEOになったことも原因であるようです。ただ、OPENSTEPのユーザやデベロッパとMac OSのユーザやデベロッパは異なります。Mac OSのユーザやデベロッパは心のどこかで「OPENSTEPに軒を貸して母屋を取られた」と思っています。これからどのように2つのコミュニティを融合させていくか、Mr. Jobsのお手並み拝見といきましょう。
Grobal OS
- これはMac OSの多言語対応を引き継ぐということですが、1つのCD-ROMで全ての言語用のシステムを提供するそうです。既にMac OS 9は各種Language Kitやフォントが同梱されていますからマルチリンガルOSです。ただ、フォントは代表的なものしか含まれていないので、英語版のMac OS 9と日本語版のMac OS 9は同じものではないようです。これが1つのCD-ROMで提供されるわけですからさらに一歩前進でしょう。
- これはユーザにとってメリットがあるのは当然ですが、アップルにとっても在庫管理の負担が減ります。マニュアルなどもPDFファイルにしてCD-ROMに焼いてしまえば各国毎にパッケージングする手間すらなくなります。Mac OS X単体での販売ではもちろん、プリインストール版のMacintoshまでパッケージングが簡単になります。簡易セットアップマニュアルも各国語全てで書かれているものを同梱すれば1パッケージで済みますから。
- ただ、グローバルOSと言われると、私はもう少し進んだことを期待してしまいます。つまり、コントロールパネルで言語を選択すれば即座にメニューがその言語に変わるようなOSこそがグローバルOSだと思います。一部の高機能アプリケーションでは実現されていることなのでできないことではないと思います。そのうち実現されるのでしょう。
- 実は既にそうなっているのかもしれません。これほど短期間に日本語版が登場してきていることからもそれが感じられます。とても楽しみです。
さて、Mac OS Xの基本コンセプトは以上です。安定性、先進性、そして、Mac OSとの互換性、それらは素晴らしいものと思えました。ただ、Mac OS Xの素晴らしさはこれだけではないのです。私がMac OSとの互換性に感激したのと同じぐらい驚いたのが、新しいFinderでした。このNew FinderはMac OS X ServerのWorkspace Managerと同じように見えます。そして、Mac OSとのFinderとの大きな違いに私は違和感を感じていたのでした。しかし、それは大きな誤解でした。では、その素晴らしいNew Finderについて説明しましょう。
従来のFinderと同じように使える
- New FinderはMac OSのFinderと同じように使えます。アイコン表示やリスト表示が可能なのです。昔ながらのMacintoshユーザはウィンドウを開いてファイルの階層を掘り下げていくのが好きです。まず、デスクトップにあるハードディスクのアイコンをダブルクリックして開き、その中のフォルダを開き、その中のフォルダを開き、……、そして目的のファイルを開く、という方法です。これは非常に効率が悪い方法です。しかし、何故かこの方法を使ってしまいます。しかも、ご丁寧にフォルダが複数開いても重ならないようにキレイに並べたりしているのです。
- これまでこの操作を楽にするためにさまざまなアプローチが行われてきました。例えば、エイリアスです。深い階層にあるファイルやフォルダのエイリアスをデスクトップなどに作れば、開くウィンドウの数を少なくなります。また、マウスボタンをプレスし続けることでフォルダを開いていくことができます。この方法では目的のファイルやフォルダにたどり着いた時にそれまでに開いたフォルダは自動的に閉じられます。
- アップルはこの操作を更に楽にするためにWorkspace ManagerライクなNew Finderを提案してきました。これはこれで便利そうではありますが、私には定着しないのではないかと思えてならなかったのです。私だけかもしれませんが、よほどの事がない限りリスト表示をつかいません。アイコン表示のまま小さいサイズのアイコンを並べてしまいます。Windows95のエクスプローラ(ファイルビュアー)は結構使いますが、Mac OSではリスト表示を使わないのです。理由はわかりませんが、自分の好きな順番でファイルやフォルダを並べることができないからでしょうか。そういえばWindows95ではフォルダの表示サイズを小さくできないできないですね。開いたフォルダウィンドウの位置は覚えてくれたでしょうか。もしかしたら、画面エリアを大きなアイコンとウィンドウで占有したくないのでエクスプローラを使っているのかもしれません。
- New Finderはアイコン表示が可能でアイコンサイズも自由に無段階で変更可能です。Mac OSのように2種類や3種類ではないのです。デスクトップ上にハードディスクのアイコンを置けるかはわかりませんが、Mac OSのFinderと同じように使えそうです。
- 少しWorkspace Managerライクなブラウザ表示を紹介しましょう。これはWorkspace Managerそのもののようです。リスト表示が3列に並んでおり、左が上層で右へいくほど下層になります。表示は3列(3階層)ですが、左右にスクロールすることで更に下層へもアクセス可能です。確かにファイルを探すのには便利な方法だと思います。また、プレビュー機能も優れており、QuickTimeムービーまでプレビューできるのです。機能的には十分だと思います。ただ、これが主流になるかはわかりません。自分でもメインで使ってみようと思えるかも今はわかりません。
- このあたりは実際に使ってみた上で評価すべきことでしょう。しかし、アップルが昔ながらの手段も残しながら新しいアプローチも提案してきたという姿勢は大いに評価できると思います。確かにこのアプローチ方法にはWorkspace ManagerライクなNew Finderに対するアップルの自信の無さが見えます。というのもMr. Jobs体制のアップルでは互換性や慣れというものを切り捨ててでも新しい提案を行ってきたにも関わらず、このNew Finderではそうでないからです。しかし、結局はユーザ自身が決めることなのです。Modern I/Oへ一気に切り替えた時にはユーザはかなり混乱しました。結果的にはアップルの思惑通りMoren I/Oに切り替わりつつありますが、ユーザインターフェースに「結果オーライ」は通用しません。アップルは懸命な判断をしたと思います。
[Expo Tokyo Report (その1)]
[(その2)]
[(その3)]
[(その4)]
[(その6)]
[Macintosh 雑記帳のトップページ][Expo Report Top]
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