2026/01/19
自動車の排気ガス規制 (その7) ZEV規制(Zero Emission Vehicle規制)と欧州マイルドハイブリッドカー
- このように未完成なEVに完全にシフトしようという動きがZEV規制だ。厳密にはZero Emission、つまり、環境負荷ゼロの自動車はEVだけではない。欧州のZEV規制ではFCEV(燃料電池車)やPHEV(プラグインハイブリッドカー)もZEVに含まれる。正直なところ、個人的にはPHEVはエンジンを積んでいるのでZero Emissionではないのではと思うが、そう分類されているようだ。事実、アメリカのカリフォルニア州などはPHEVをZEVに含めていない。対して、大気汚染に苦しむ中国もZEV規制に踏み込んでおり、NEV規制(New Energy Vehicle規制)として、EV、PHEV、FCEVへのシフトを急いでいるのだ。ここではEVとFCEVだけをZEVとして書いてみよう。
- 余談だが、FCEV(Fuel Cell Electric Vehicle)は名前のとおり燃料電池車のことだ。水素を使って電気分解の逆の反応を起こして発電することでバッテリーに充電し、その電力を使ってモーターで走行するものだ。私は最初、水素エンジンで走ると勘違いしていたのだが、何のことはない。エンジンで発電する代わりに水素で発電しているだけなのでバッテリーの呪縛からは逃れられないのだ。カワサキが水素エンジンで走るバイクを開発しているが、そういう車は作れないのだろうか。安全性が確保されるのであれば、それが最強のような気がする。
- と、思って調べてみたら、トヨタが開発しているようだ。現状はモータースポーツ(耐久レース)用だが、水素燃料車としてGRカローラ H2コンセプトを開発しているのだ。さすがである。このGRカローラ H2コンセプトは進化を続けていて、今では気体ではなく液体水素を使って走行できるまでになっている。液体水素燃料をくみ上げてエンジンに送るポンプのモーターを超電動モーターにアップデートすることで大幅に小型化し、タンク内に収納することで重心を下げることに成功している。リンクのトヨタイムズの動画は必見である。
- さて、話を戻そう。CAFE規制の行く着く先はZEV規制で、国や地域によって差はあるものの、最終時期は2050年である。正直なところ、25年も先のことに誰も責任を持たないだろうなぁ、と思えてならない。その頃にはこれを決めた政治家や官僚たちは既に現役ではないだろうからだ。困ったものである。
- 欧州や中国でのEV化のスピードが速く、移行の期限が2035年とか2030年に前倒しがされたのだが、各国のEV補助金の枯渇によってEV化が鈍化し一気にトーンダウンしている。結果として、元の期限である2050年に戻りつつある。そもそも無理な目標だったのだが、それを誰も認めず誰も責任を取らないままにだ。
- 欧州での動きにはもう1つマイルドハイブリッドカーというものがある。これは日本の軽自動車に搭載されているシステムと基本的には同じものだが48Vの高電圧バッテリーを使っているのだ。このハイブリッドシステムにはいろいろあるらしい。なので、そこから調べなければならないようだ。
- まず、ハイブリッドシステムにはパラレル方式とシリーズ方式がある。パラレル方式とはエンジンとモーターの2つの動力機構を並列で使用するものだ。基本はエンジン走行で、モーターでアシストを行うことができる。逆にモーターのみでの走行はできない。簡単に言えば、電動アシスト自転車と同じなのだ。ペダルを漕がないと走らない、つまり、エンジンが動かないと走れないわけだ。具体的には欧州のマイルドハイブリッドシステムや軽自動車のハイブリッドシステムがパラレル方式である。また、ホンダの最初のハイブリッドシステムであるIMAもパラレル方式だった。システムが簡単なためコストが安いのがメリットだが燃費改善効果は少ないのが欠点である。
- ただ、ホンダ初のハイブリッドカーであるインサイトはパラレル方式であるものの、燃費面でのデメリットを2人乗りに割り切り、アルミ合金を使ってボディを軽量化したり、後輪をボディーで覆うなどして空力性能を高めることでカバーした。そして、結果的に当時のプリウスの燃費28km/Lを上回った35km/Lを達成したのだが販売は振るわなかった。先駆者のトヨタのプリウスは後述するスプリット方式であり、ハイブリッドシステム的に優れており、車としての実用性が上回っていたからだろう。パラレル方式の初代インサイトは低価格で対抗したのだが完敗したのだ。当時の私はよく分からず「トヨタの販売力に負けた」と思っていたのだが、そもそもシステムレベルで負けていたわけだ。
- ちなみに、以下の表が軽自動車のスズキ アルトでの燃費比較だ。ガソリンエンジン車よりマイルドハイブリッドシステムを積んでいる車の方が燃費も良く、CO2排出量も少ないのがわかる。ただ、ヤリス(1.5L、ガソリンエンジン車)の燃費がWLTCで21.3km/Lなのに対し、スプリット方式であるハイブリッドカーの燃費は36.0km/Lと大きく改善されているのに対し、その改善度合いはかなり少ないと言えるだろう。
| 軽自動車 スズキ アルト 燃費比較 |
| 車名 |
種別 |
グレード |
排気量 |
車両重量 |
WLTC燃費 |
CO2排出量 |
| アルト |
ガソリンエンジン車 |
A |
0.66L |
0.68t |
25.2km/L |
92g/km |
| マイルドハイブリッドカー |
HYBRID S |
0.66L |
0.7t |
27.7km/L |
84g/km |
| トヨタ ヤリス 燃費比較 |
| 車名 |
種別 |
グレード |
排気量 |
車両重量 |
WLTC燃費 |
CO2排出量 |
| ヤリス |
ガソリンエンジン車 |
X |
1.5L |
0.99t |
21.3km/L |
109g/km |
| ハイブリッドカー |
X |
1.5L |
1.05t |
36.0km/L |
64g/km |
- 次に、シリーズ方式だが、エンジンとモーターの2つの動力機構を直列で使用するものだ。どういうことかというと、動力機構はモーターのみで、エンジンはモーターを動かすバッテリーに充電するための発電機に過ぎない。それゆえ、エンジン走行ができないのだ。簡単に言えば、EVにガソリンエンジンの発電機を載せているのだ。具体的には日産のe-POWERやマツダが開発したロータリーエンジンによるレンジエクステンダー車がシリーズ方式に当たる。そこそこのシステム構成になる割には燃費改善効果が高くはない。先にF1とフォミュラEの比較を試みたが、高速走行においてモーターがガソリンエンジンより優れているのか疑問ではある。事実、モーター走行しかできない日産e-POWERは特に高速走行時の燃費が悪いと言われているのだ。
- 最後にスプリット方式がある。これはシリーズ・パラレル方式とも呼ばれているとおり、シリーズ方式とパラレル方式の良いとこ採りをしているのだ。エンジン系とモーター系が切り離されており、その切り換えによってエンジン走行、モーター走行、両方を使ったハイブリッド走行が可能である。具体的にはトヨタのハイブリッドシステム(THS、THS II)やホンダのe:HEVや前世代のi-DCDがこれに当たる。バッテリーへの蓄電はエンジンによる発電やモーターによる発電によるエネルギーを使用し、ストロングハイブリッドに分類される。燃費改善効果が大きいのがメリットだが、システムが複雑なため高コストであり、走行距離が少ないライトユーザーの場合はハイブリッド化のコストをペイできない。これらをわかりやすく説明しているのがホンダの最初のハイブリッドシステムであるIMAの説明ページである。参考までにリンクしておこう。
- 余談ではあるが、フィットの前モデル(3代目)が紅葉シーズンに日光の「いろは坂」が渋滞すると「オーバーヒート」によって長い坂道の途中で動かなくなってしまうのは、前世代のi-DCDが原因と言われている。渋滞しているためストップ&ゴーの繰り返しでDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)が高温になってシャットダウンしてしまうらしい。このDCTは元々はバイク用に実用化された変速システムで、マニュアル(MT)とオートマチック(AT)の両方の良いとこ取りのシフトチェンジを実現できていたらしい。それを7速DCTとして自動車のハイブリッドシステムのエンジンとモーターの切り替え部分に使ったわけだ。だが、この複雑な7速DCTは渋滞などで頻繁にシフトチェンジ(モーターとエンジンの切り替え)を行うとオーバーヒートしてしまうということらしい。
- さらっと書いてしまったが、マイルドハイブリッドというのはエンジンが主でモーターがアシストするシステム、つまり、パラレル方式のことで、ストロングハイブリッドというのはエンジンとモーターが相乗効果で動くパワフルなシステムということだ。スプリット方式はもちろんストロングハイブリッドだが、シリーズ方式もストロングハイブリッドに分類されるようだ。
- さて、クリーンディーゼル車の信用が失墜し、EV補助金が枯渇した欧州では今さらではあるが、ハイブリッドカーのシェアが伸びているようだ。ただ、欧州車の場合はマイルドハイブリッドカーである。そもそも、なぜ欧州でマイルドハイブリッドシステムがシェアを持つようになったのか。それは、構造がシンプルで開発しやすくコストも安いというのが1つ。そして、欧州では元々クリーンディーゼルエンジン車が多いため、ガソリンエンジン車より燃費が良いというのが2つ。最後に軽油の方がガソリンより安いということが理由らしい。つまり、欧州ではクリーンディーゼル車にマイルドハイブリッドシステムを載せているわけだ。かつて日本でもよく議論されたが、ハイブリッドカーを購入して元が取れるのかということなのだ。欧州人は決して「意識が高い」わけではなく、現実的にペイするかどうかで判断しているのである。
- しかし、欧州のマイルドハイブリッドシステムは日本の軽自動車の12Vバッテリーに対して48Vと高電圧化されてはいるものの所詮はパラレル方式であるため燃費改善効果は薄い。EU当局はクリーンディーゼル+48VマイルドハイブリッドシステムでCAFE規制がクリアできると思っていたようだが、結果は思わしくなかった。EVシフトが鈍化し、クリーンディーゼル車の信頼が地に落ち、48Vマイルドハイブリッドシステムも効果薄というのが現状なのだ。全くもって手詰まりである。2025年CAFE規制の延期やZEV規制期限の見直しがそれを物語っているのだ。