フォーサーズ雑記帳（バックナンバー）

ニコンのレンズ交換式カメラを考える（その2）

ニコンのレンズ交換式カメラを考える（その1）

• さて、ニコンD750について書いてみたが、もう少しニコンについて考えてみよう。現時点のニコンの一眼レフ、ミラーレスカメラをまとめてみると何かが見えてくるのではないだろうか。FXフォーマット機は先日書いたとおりなので、DXフォーマット機を見てみよう。

  	D7100	D5300	D3300
  発売日	2013年3月14日	2013年11月14日	2014年2月6日
  防塵・防滴	○	×
  ファインダ視野率	100% (0.94倍)	95% (0.82倍)	95% (0.85倍)
  画素数	24.10M	24.16M
  ISO感度	100〜6400	100〜12800
  シャッタースピード	1/8000〜30秒 X=1/250〜320秒	1/4000〜30秒 X=1/200秒
  連写速度	6コマ/秒	5コマ/秒
  露出制御	2016分割RGBセンサー		420分割RGBセンサー
  画像処理エンジン	EXPEED 3	EXPEED 4
  オートフォーカス	アドバンストマルチCAM3500DX 51点　(クロス15点、F8対応1点)	マルチCAM4800DX 39点　(クロス9点)	マルチCAM1000 11点　(クロス1点)
  背面液晶	122.9万ドット (3.2型固定式)	104万ドット (3.2型フリーアングル式)	92万ドット (3型固定式)
  記録メディア	SD (SDXC UHS-I対応) SD (SDXC UHS-I対応)	SD (SDXC UHS-I対応)
  動画撮影	1920x1080/30p 1920x1080/60i	1920x1080/60p
  インターフェース 各種ターミナル	アクセサリーシュー (シンクロターミナルなし) USB 2.0 HDMI マイク入力 ヘッドフォン出力 アクセサリーターミナル (リモート/GPS) (ワイヤレス)	アクセサリーシュー (シンクロターミナルなし) USB 2.0 HDMI マイク入力 - アクセサリーターミナル (リモート/GPS) (ワイヤレス)
  重量(電池・カード含む)	765g	530g	460g
  重量(ボディのみ)	675g	480g	410g
  備考		Wi-Fi内蔵 GPS内蔵 カーボン複合素材モノコックボディ	エントリーモデル カーボン複合素材モノコックボディ

• こうして見ると、D5300とD3300は兄弟機であることがよくわかる。ベースは共通で露出制御センサやオートフォーカスセンサや背面液晶を差別化して機種間の差をつけているわけだ。また、D7100は明らかに機能が見劣りしてきている。D5300が2013年11月14日の発売、D3300はその技術を受け継いで2014年2月6日に発売されているのに対し、D7100は2013年3月14日の発売であり、1世代前のモデルだからだろう。

• また、D7100はFXフォーマット機と比べてみると良くわかるが、露出制御センサやオートフォーカスセンサが明らかに見劣りする。91KピクセルRGBセンサーは採用されていないし、オートフォーカスの合焦ポイントは少なく、クロスセンサやF8対応センサも極めて少ない。これは発売時期にその技術が無かったからではない。FXフォーマット機のD800はその1年前の2012年3月22日の発売だったが、91KピクセルRGBセンサを採用し、アドバンストマルチCAM3500FXセンサを採用して51点　(クロス15点、F8対応11点)のオートフォーカスを実現しているからだ。

• 今さらながら、私はニコンユーザがD300s後継機を待ち望んでいる理由がわかった。ニコンや阿部氏は100%視野率のファインダなどを持ち出して「フラッグシップ並み」と言ってはきたものの、基本性能から見てもD7000やD7100はフラッグシップとは言えないのである。

• 加えて、イメージセンサについてはFXフォーマット機には16M、24M、36M画素と3種類が用意されているにも関わらず、DXフォーマット機には16M画素のみしか用意されていない。DXフォーマットはFXフォーマットの約半分のイメージセンサ・サイズであることを考えると高画素機しか用意されていないことになる。思っていた以上にラインアップが薄いのだ。

• ニコンはDXフォーマット機をどうしようとしているのか。少し考えてみよう。私にはニコンは異常なまでにFXフォーマット機に注力しているように見える。これは以前のニコンとは明らかに違うところだ。ニコンはD2xsまでのフラッグシップはDXフォーマット機だった。当然その頃にはFXフォーマット機は存在しなかったのだ。しかし、2007年11月のD3の登場によってFXフォーマット機のフラッグシップが誕生した。当時はFXフォーマットのデジタル対応レンズが少なかったため、ニコンはDXフォーマット機のフラッグシップとしてD300も用意していたのだ。

• D300はオートフォーカスセンサーも測光センサーもD3と同等でフラッグシップという名に恥ずかしくない存在だった。しかし、2009年8月にD300sが登場し、DXフォーマット機のフラッグシップの座を受け継いだものの、2011年11月の販売終了とともにその座は空位状態になっている。この販売終了は電安法(電気用品安全法)の改正がらみというのが表向きの理由ではあるが、後継機が用意されなかったのだ。最近のニコンのFXフォーマット偏重はこの頃から始まっていたのかもしれない。

• Nikon 1については別に書くとして、もう少し書いてみたい。

ニコン D750（その2）

• さて、簡単にD750のスペックを見てみよう。下表はニコンのFXフォーマット機のスペックを比較したものだ。

  	D4s	D810	D750	D610	Df
  発売日	2014年3月6日	2014年7月17日	2014年9月25日	2013年10月19日	2013年11月28日
  防塵・防滴	○
  ファインダ視野率	100% (0.7倍)
  画素数	16.23M	36.35M	24.32M	24.26M	16.25M
  ISO感度	100〜25600	64〜12800	100〜12800	100〜6400	100〜12800
  シャッタースピード	1/8000〜30秒 X=1/250秒	1/8000〜30秒 X=1/250〜320秒	1/4000〜30秒 X=1/200〜250秒
  連写速度	11コマ/秒	5コマ/秒	6.5コマ/秒	6コマ/秒	5.5コマ/秒
  露出制御	91KピクセルRGBセンサー			2016分割RGBセンサー
  画像処理エンジン	EXPEED 4			EXPEED 3
  オートフォーカス	アドバンストマルチCAM3500FX 51点　(クロス15点、F8対応11点)		アドバンストマルチCAM3500 II 51点　(クロス15点、F8対応11点)	マルチCAM4800 39点　(クロス9点、F8対応7点)
  背面液晶(3.2型)	92万ドット (固定式)	122.9万ドット (固定式)	122.9万ドット (チルト式)	92万ドット (固定式)
  記録メディア	XQD CF (UDMA対応)	CF (UDMA対応) SD (SDXC UHS-I対応)	SD (SDXC UHS-I対応) SD (SDXC UHS-I対応)		SD (SDXC UHS-I対応)
  動画撮影	1920x1080/60p			1920x1080/30p	非対応
  インターフェース 各種ターミナル	アクセサリーシュー シンクロターミナル USB 2.0 HDMI マイク入力 ヘッドフォン出力 10ピンターミナル (リモート/GPS) (ワイヤレス) 有線LAN (RJ-45) 拡張ターミナル (ワイヤレス)	アクセサリーシュー シンクロターミナル USB 3.0 HDMI マイク入力 ヘッドフォン出力 10ピンターミナル (リモート/GPS) (ワイヤレス)	アクセサリーシュー - USB 2.0 HDMI マイク入力 ヘッドフォン出力 アクセサリーターミナル (リモート/GPS) (ワイヤレス)	アクセサリーシュー - USB 2.0 HDMI マイク入力 ヘッドフォン出力 アクセサリーターミナル (リモート/GPS) Eye-Fi対応	アクセサリーシュー シンクロターミナル USB 2.0 HDMI - - アクセサリーターミナル (リモート/GPS) (ワイヤレス)
  重量(電池・カード含む)	1350g	980g	840g	850g	765g
  重量(ボディのみ)	1180g	880g	750g	760g	710g
  備考	高感度・高速 (オリンピック対応モデル) フラッシュ非搭載	高解像 (商用印刷対応モデル)	エントリーモデル Wi-Fi内蔵 カーボン複合素材モノコックボディ	エントリーモデル	非Aiレンズ使用可 フラッシュ非搭載 動画撮影非対応 シルバーボディあり

• この表を作ってみて、まず驚いたのはニコンがわずか1年の間に5機種ものFXフォーマット機をリリースしていることだ。私にはニコンはFXフォーマットに全てを懸けているように思えてならない。その開発リソースの集中投下には驚くばかりだ。

• そのニコンのFXフォーマット機は大きく3つに分かれるようだ。画像処理エンジンがEXPEED 4のD4sとD810、EXPEED 3のD610とDfとその間に位置するD750である。しかし、ニコンのラインアップはうまい。上位機と下位機のスペックをうまく取り混ぜてD750を作っているのだ。

• さて、私なりの考えも書いておこう。阿部氏の意向には反してしまうが、素直に考えるとD750はD610の後継機である。ボディサイズや重量、画素数、価格帯からしてそれは間違いないと思われる。ただ、名前がD620にならなかったのはマイナーチェンジではなく、フルモデルチェンジという意図を込めたかったのだろう。阿部氏の語るとおり、ニコンはデジタル一眼レフを完全にフルモデルチェンジしたわけだ。この設計がD4sやD810の後継機に活かされるのは間違いないだろう。

• ニコンはこれまでイメージセンサと画像処理エンジンの進化に合わせて露出制御のための測光センサーやオートフォーカスセンサーを改良してきた。それに3D-トラッキングやアクティブD-ライティングなどのソフトウェア処理を組合せて機能強化を図ってきた。ただ、イメージセンサや画像処理エンジンの進化がひと段落した現状ではその手法でモデルチェンジを続けるのは難しい。だから、デジタル一眼レフの基本設計をやり直したのだろう。これで少なくとも4〜5年先までのベースが固まったわけだ。

• 私はカメラメーカ各社はそろそろモデルチェンジサイクルを延ばさなければ生き残れないと思っている。これ以上短期的なモデルチェンジを続けていては消耗戦になってしまうからだ。最近はハイエンド機のモデルチェンジ周期は2年程度に延びてきているが、フィルムカメラが5年〜10年ぐらいの周期であったことを思うとまだまだ短いのだ。しかし、ニコンはまだまだモデルチェンジをする気満々のようだ。ここにトップメーカの強さがあると言えるが、大丈夫なのかとも思ってしまう。ニコンはどこに向かおうとしているのだろう。少し考えてみたい。

ニコン D750（その1）

• これから何回かにかけてニコンとニコンD750について書いてみようと思う。ネットではD620だろうと酷評されたが、Nikon Digital Live 2014に出向いて見聞きしたところではそれは完全な誤りだということがわかった。ネットの情報は有効ではあるが、嘘が多い。必ず裏付けを取る必要があることを再認識してしまった。

• 毎度のことだが、阿部秀之氏の「デジタル一眼レフ戦国時代を制す。登場D750。FXの新しい時代が始まる。」と題されたステージは素晴らしかった。さすが、ニコンのスーパープレゼンターの面目躍如といったところだろうか。

• 阿部氏はD750のポジショニングから話し始めた。D750はD610とD810を足して2で割ったカメラではない。D810の弟分でもなければD610の後継機でもない。ニコンのポジショニングは明確だ。高速連写可能なオリンピックなどスポーツ対応モデルのD4s、高画質のスタジオ撮影や風景撮影用のD810、そして、誰でも使えるファミリー層をターゲットにしたD610と適切にポジショニングしている。そこに投入されたD750には明確な意図があると阿部氏は語った。

• 阿部氏はD750がエポックメイキングに成りうるカメラであるとした上で、そのポイントをボディの薄さとした。カメラに限らず、製品は機能を追加すれば大きく重くなる。そして、技術革新によって元のサイズに戻るのだが、阿部氏はD750でようやくフィルムカメラに戻ったと指摘した。ニコンはDfでフィルムカメラでの撮影スタイルへの回帰を提案したが、残念ながらボディは分厚いままだっだ。ようやくフィルムカメラサイズのデジタル一眼レフが登場したというわけだ。

• これはボディ構造を完全に再設計したから実現出来たことらしい。これまでのニコンのデジタル一眼レフはフィルムカメラの設計の延長線上にあった。フィルムカメラ構造のボディにイメージセンサと背面液晶をただ追加したため、ボディが分厚くなってしまっていたのである。ニコンはボディ構造を変更し、後ボディを無くした。さらに回路基板を高集積化で小さくし、中央部に切り欠きを作り、そこにイメージセンサを埋め込むことで従来よりも薄いボディを実現したのである。それによってボディ剛性が損なわれないようにカーボン複合素材を用いたモノコック構造のボディカバーを採用している。

• ちなみに、阿部氏によれば、このカーボン複合素材を用いたモノコック構造はDXフォーマット機のD5300やD3300で実証済なので安心だということだ。ニコンに限らず新技術には不安もある。研究開発段階で想定できるトラブルには対処が済んでいるが、市場に出せば想定外のトラブルは起こりうるのだ。そのため、新技術にはリスクがあるが、今回は3機種目ということもあり、問題は潰し込まれており安心出来るということだ。

• それだけではなく、ボディ内のパーツレイアウトも大幅に変更しているそうだ。バッテリの位置やフラッシュのチャージ用のコンデンサの位置も変更しているのだ。つまり、フィルムカメラの設計を捨ててデジタルカメラとしてイチから設計し直したわけだ。恐らくこのボディ設計が今後のニコンの一眼レフのベースになるのだろう。それゆえ、阿部氏はエポックメイキングなカメラと評したわけだ。

• 阿部氏はチルト式の背面液晶を絶賛していた。一脚に付け上に掲げてハイアングルで撮影できたり、ローアングルでの撮影に便利なのは言わずもがななのだが、FXフォーマット機では初採用と聞いて驚いてしまった。既にフリーアングル液晶は当然であり、チルト式で絶賛することではないだろう。

• また、D750の下克上の機能としては暗いところでもオートフォーカスが効きやすいらしい。D4sでも-2EVまでしか効かないのにD750では-3EVまでオートフォーカスが効くそうだ。ニコンのオートフォーカス技術は進んでいる。うらやましい限りだ。

M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO　& M.ZUIKO DIGITAL 1.4x Teleconverter MC-14

• さて、今回の本命はM.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PROだろう。開発発表から1年余り、11月29日にようやく発売にこぎつけようとしている2本目のM.ZUIKO PROレンズである。そして、合わせて専用のテレコンであるM.ZUIKO DIGITAL 1.4x Teleconverter MC-14が発売される。かつて、CP+で私の「M.ZUIKO DIGITALに何故テレコンがないのか」という質問に対してオリンパスの偉い人が答えてくれたのだが、そもそもPENのユーザからは「テレコンが欲しい」というリクエストはなかったらしい。テレコンのリクエストはE-M1とM.ZUIKO PROレンズの登場によって生まれたそうだ。そして、オリンパスもテレコンの開発にトライしていることを明かしてくれた。私が「デジタル補正はできるのか」と確認すると「難しい。ただ、登場が遅れている理由としては要望がなかったことの方が大きい」と教えてくれた。それで、私は密かに期待していたのだが、ついにテレコンが登場するのだ。

• オリンパスは専用設計という手段でデジタル補正の問題をクリアし、M.ZUIKO DIGITAL 1.4x Teleconverter MC-14を製品化してきた。このテレコンはM.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PROとM.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4 PROの専用なのだ。この2本のレンズはテレコン用の専用端子を持っており、レンズの焦点距離情報を1.4倍にしてカメラに送るのは当然だが、加えて、ファインディテール処理などのデジタル補正の情報も送られるらしい。しかし、M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PROはこの専用端子を持っていない。そのため、このテレコンは使えないのだ。まあ、形状的にもレンズが干渉してしまって物理的につけることはできないようだ。

• この1.4xテレコンによってM.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PROは135換算で80〜420mmまでをカバー出来ることになる。何とかZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8-3.5 SWDの代わりになるだろうか。まあ、50-200mmに1.4xテレコンをつけると135換算で100〜560mmまでをカバー出来るので、PROレンズの望遠側はまだ足りない。そのため、M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4 PROが計画されているというわけだろう。ただ、私のような広角使いには100mm-300mmぐらいのズームレンズの方が使い勝手は良いと思う。単焦点の望遠レンズは扱いが難しいのだ。まあ、無い物ねだりはやめておこう。

• さて、このM.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PROの性能はスゴイらしい。オリンパスによるとフォーサーズのSUPER HIGH GRADE望遠単焦点レンズであるZUIKO DIGITAL ED 150mm F2.0を凌駕するそうだ。このレンズは「松」レンズなのだが、E-1と同時の2004年10月の発売である。つまり、10年前の技術で作られたレンズなのだ。それを超えるのは当然ということだろう。オリンパスは女子カメラだったマイクロフォーサーズにようやく本気になってきたというわけだ。

• 10年の進化とは何かというと、レンズの設計技術ではないらしい。もちろん、コンピュータの進化によってレンズ設計は簡単になったらしい。しかし、際立って大きいのは製造技術だそうだ。フォーサーズのSUPER HIGH GRADEレンズは「TATSUNO QUALITY」と呼ばれる職人の研磨技術によって作られていたのだが、M.ZUIKO PROレンズは高温で圧縮して作られるらしい。恐らく、金型の中に高温で溶けたガラスを流し込んで圧縮し冷却して作るということなのだろうが、まさかプラスチックレンズの射出成形と同じような作り方ということなのだろうか。しかし、プラスチックの射出成形ではクリアで大きなレンズは作れないのではなかっただろうか。それをガラスで行うのは簡単ではないだろう。やはり、ガラスが割れたりして歩留まりは良くなかったらしい。しかし、技術革新で歩留まりが上がってきたため製品化が出来るようになってきたそうだ。

• オリンパスのレンズの強みは高解像なのだが、それはこの高温のガラスを圧縮して作られるSuper EDレンズ(スーパー特殊低分散レンズ)やEDレンズ(特殊低分散レンズ)、EDAレンズ(特殊低分散非球面レンズ)、HDレンズ(高屈折率＆高分散レンズ)、非球面レンズなどの光学技術によるところが大きい。もちろん、私はニコンの光学技術も素晴らしいと思うが、価格も加味するとオリンパスの方が数段上ではないだろうか。いくら素晴らしくても手が届かない値段では意味がない。その意味で私はオリンパスのレンズを密かに「廉価版のニッコール」と呼んでいる。もちろん、良い意味でである。恐らくオリンパスは「ニッコールより上回っている」と胸を張るだろうが。そのぐらいの意気がなければやっていけない。(笑)

• さて、レンズ設計はもちろんだが、レンズ技術の進化もあるそうだ。このレンズはインナーフォーカスを採用しており、ズームしてもレンズの全長が変化しない。これは撮影時のバランスと最短撮影距離に影響するだろう。そして、DUAL VCMフォーカスシステムによる高速・高精度AF を実現している。VCMとはVoice Coil Motorの略らしく、スピーカ駆動に使われている技術らしいが、2つのレンズ群を同時に高速に動かしてピントを合わせることができるらしい。

• そして、ZEROコーティングの採用である。このコーティング技術の発達は本当に早い。ニコンのナノクリスタルコートが登場して以来、各社が技術競争を始めてオリンパスもZEROコーティングを生み出した。高級なレンズはレンズ枚数が多く、それらのレンズ面の反射の影響は非常に大きい。それを低減してくれるのだから非常に期待をしている。これが超広角ズームレンズであるM.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROに採用されれば、フレアやゴーストが大幅に低減されるのではと期待できるのだ。

• レンズのファンクションボタンも効果的だ。ワンプッシュで画像を拡大してピントの確認ができたり、カメラボディから色々な機能を割り当てられるのだ。そして、フードも良い感じだ。ワンタッチで収納出来るギミックは便利である。ただ、フードを収納すると太くなってしまう。昔の望遠系レンズのフードも本体収納式だったのだが、単にスライドするだけのスリムなものだった。広角系と異なり、ケラレを心配する必要がなかったからなのだが、ちょっとオーバーな気もする。スリムさというのも重要で、それだけカメラバッグ内のスペースが有効に使えるのだ。

• オリンパスがM.ZUIKO PROレンズにレンズフードを同梱してくれるのは良いことだ。レンズフードは必須であり、レンズの一部だからだ。ただ、レンズケースを同梱する必要があるだろうか。コストダウンをするならレンズケースこそ別売りにすべきだと思う。カメラバッグを使っている人には不要だからだ。

• さて、私はまだマイクロフォーサーズに移行していないのだが、それはM.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROを待っているからだ。広角使いである私にはそれが登場しないことには移行ができない。M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PROの作例などを見てみると期待は高まるばかりである。

オリンパス OM-D E-M1 Ver. 2.0

• オリンパスのOM-D E-M1のファームウェアが大幅に機能強化されてVer. 2.0となった。正直なところ、驚いた。ファームウェアのバージョンアップは基本的にはバグフィックスや新しいレンズとの相性を調整するようなケースがほとんどだったからだ。OLYMPUS Photo Festa 2014に出向いて確認したが、確かにVer. 2.0と呼んでもよいようなバージョンアップである。

• 今回のアップデートには最新機種であるPEN E-PL7に始めて搭載された「ヴィンテージ」「パートカラー」という2つのアートフィルター、OM-D E-M10に始めて採用された「ズームイン/アウト」とPEN E-PL7に始めて搭載された「レイアウト」というフォトストーリーが追加され、フォトストーリーにはホールド機能がついた。アップデートは他にもある。E-M10やE-PL7に搭載されている機能だが、ライブコンポジットという比較明合成機能が追加されている。また、E-PL7に搭載された「流し撮り」というシーンモードも追加されている。そして、ムービーエフェクトの「オールドフィルム効果」も追加されている。これらはハードウェアではなくソフトウェアで実現されていた機能らしい。

• オリンパスの説明によるとこれらの機能追加には画像処理エンジンにそれだけの能力があることが大前提らしい。E-M10もE-PL7もE-M1も画像処理エンジンはTruePic VIIで同じである。同じだからこそファームウェアアップデートで機能追加が出来たというわけだろう。つまり、E-M5やE-P5、E-PL6の画像処理エンジンは一世代前のTruePic VIであるので、物理的に同様のアップデートはできないということだ。ただ、では同じ画像処理エンジンを載せているE-M10やE-PL7にも同様のアップデートがされるのだろうか。オリンパスは今回のファームウェアアップデートには1機種分の開発リソースがかかったと言っていた。オリンパスも「フラッグシップが機能で劣るのはまずい」と言っていたのでフラッグシップならではのアップデートと考えた方が良いだろう。

• ここまでならオリンパスもVer. 2.0とは言わずにVer. 1.5と言ったのだろうが、さらに従来のカメラにない機能が追加されているのだ。それゆえのVer. 2.0というところなのだろう。まず、「デジタルシフト」が追加された。オリンパスにはシフトレンズがないが、その機能をライブビューで確認しながらデジタル補正という形で使えるのだ。これは広角使いとしてはとてもありがたい。もちろん、OLYMPUS Viewer 3などの現像ソフト上でも同じことはできるのだが、実際に見ながら撮影出来るのが素晴らしい。旅行などの場合、画像処理して「失敗だなあ」と思っても撮り直しができないからだ。オリンパスは「アートフィルターの場合も社内で議論があったが、ライブで出来ることに意味がある」と説明していたが、全く同感である。E-M1は電子ビューファインダ(EVF)なので、罫線表示のファインダを覗きながらシフト具合を見ることができるわけで、使い勝手はシフトレンズと同じなのだ。

• さらにパソコンからE-M1をコントロールできるようになった。無料で配布されるOLYMPUS Captureというソフトウェアで実現される機能だが、元々はフォーサーズのカメラ用に有償のOLYMPUS Masterというソフトウェアで同等の機能が提供されていたらしい。オリンパスによると「マイクロフォーサーズではカメラの性格上必要ないと判断していたが、E-M1がプロカメラマンにもたくさん使われるようになり、要望が多かったので実現した」らしい。これはスタジオ撮影などで使う機能なので、私には必要ないのだが、対応カメラがE-M1だけなのは何故だろうとは思う。E-5などにも対応させればと思うからだ。

• その他にもアップデートされた機能としてEVFの応答スピードがある。タイムラグが0.29msから0.16msとほぼ半分になっている。もちろん、光学ファインダは0msであるからまだまだではあるが、タイムラグは短いに越したことはないだろう。そして、シルバーボディが追加された。オリンパスによるとブラックボディとは一部の部品が異なるらしい。黒い部品をシルバーに塗ったところ質感が出なかったので作り直さざるを得なかったそうだ。オープン価格なのだが、ショップによってはシルバーボディの方が高い場合があるらしい。

• さて、私はこのような大規模なファームウェアアップデートはリコーの十八番と思っていたが、良い工夫だと思う。リコーはGR DIGITALシリーズに対してファームウェアアップデートを行うことで機能強化を行い製品寿命を延ばしている。その結果、モデルチェンジは2年に1度というスローペースになり陳腐化するのを防ぐとともに開発リソースを節約しているのだ。

• デジタルカメラになってカメラのモデルチェンジサイクルが短くなってしまった。これはフィルムに相当するイメージセンサと画像処理エンジンが進化するからだ。特に高画素化競争によりイメージセンサは次々と新製品が登場していたのだ。結果としてデジタルカメラのモデルチェンジが頻発し、上位・中位・下位モデルが更新される際には下位モデルの方が新型のイメージセンサや画像処理エンジンを搭載する下克上が起こったりしていたわけだ。しかし、それもそろそろ打ち止めの感がある。

• パソコンのCPUやメモリとは少し違い、イメージセンサの高画素化のスピードが鈍ってきたからだ。その中で毎年モデルチェンジをするのは差別化が難しく製品化は厳しいだろう。特にフラッグシップモデルは2年程度は延命して欲しいというのは全てのメーカが思うことだろう。そのためにはファームウェアアップデートは良い手段だと思うのだが、ソフトウェア開発はなかなか難しいので痛し痒しというところだろうか。

• ただ、当然ながら、ハードウェア的なアップデートは不可能だ。私がE-M1後継機に望むのは内蔵フラッシュとフリーアングル液晶モニタなのだが、それはファームウェアアップデートでは無理なのだ。内蔵フラッシュはE-M10で既に実現しており、フリーアングル液晶もフォーサーズ機では実績があるので可能ではあるだろう。また、フォーサーズレンズの位相差AFのスピードアップも期待したい。これはアルゴリズムの改善で何とかなるかと思ったが今回のファームウェアアップデートには盛り込まれなかった。また、あの電源スイッチ部分はやめて欲しい。フィルムカメラのOMシステムに似せたあの部分は機能的に使いづらく必然性がないからだ。後継機はハードウェアが一新されることを期待したい。