2005/07/22
カメラ業界の復活(Photo Imaging Expo 2005レポート)
- 今頃の公開になってしまいましたが、Photo Imaging Expo 2005のレポートです。さて、3月17日から3月20日まで東京ビックサイトで開催れていたPhoto Imaging Expo 2005に行ってきました。これは毎年行われているイベントなのですが、ITメディアでの扱いは小さかったようです。開催時期が良くないのか、他のイベントに比べて新製品の発表がほとんど無いことが原因かもしれません。昨年私は開催自体に気づかず見に行けませんでした。ITメディアへの周知やカメラ店や量販店に告知ポスターを貼るなどのプロモーションが足りない気がします。あれだけのイベントなのでもったいないですね。
- このイベントは2001年から東京ビックサイトで開催されています。展示が1Fと4Fに分かれているので見て回るのがちょっと辛いです。実のところ4FではMac OS X関連の展示があったのですが、十分に見れませんでした。また、入場が有料になっていたのも驚きました。少なくとも一昨年までは無料だったのですが、それだけ出展企業の財政状態が厳しいというところでしょうか。私もユーザの1人なのですが、リコーは出展していませんでしたのでカメラ業界は厳しい状況に置かれているのかと思ってしまいました。ところが、入場してみると非常に活気がありました。私はこのPhoto Imaging Expo 2005でカメラ業界が大きな変換点を迎えたと確信したので書いてみようと思います。
- カメラ業界はこの数年大きく停滞していました。デジタルカメラが売れるのは良いのですが、各社過剰な競争をしたため価格は安く、製品のライフサイクルは短く、一時のパソコン業界と似たような状況になってしまっていたからです。確かにデジタル化は大きなチャンスで、ニコン、キャノン、ミノルタという銀塩一眼レフカメラのトップ企業に対し、デジタルカメラでは銀塩コンパクトカメラに強かった富士フィルムやオリンパス、ビデオカメラ業界から参入したソニーなどが大きなシェアを確保していました。その後、キャノンや松下電器などの参入もあり活気づいたのですが、過当競争がたたって各社の余力はなくなっていきました。コニカとミノルタは合併しましたし、オリンパスは銀塩一眼レフから撤退し、リコーは銀塩カメラそのものから撤退しています。さらに、京セラはデジタルカメラから撤退してしまったのです。
- 同じようなことがレコードからCDへの移行時にオーディオ業界でもありました。その時も業界の勢力図は大きく塗り替えられのです。ただ、最初は「CDは確かにノイズは無いが、音質が悪い」とデジタル化は簡単に進みませんでした。これはアナログからデジタルへの移行の場合、アナログデータを細かく刻んでデジタル化しないとデータが大きく損なわれるからです。最初のCDのデジタル分解能はまだ十分ではなかったわけです。その後しばらしくして分解能が上がりCDは市民権を得て、レコードはほぼ絶滅しました。そして、今ではSuper Audio CDなどによりさらにデジタルの音質が上がり、逆に「味がある」とアナログのレコードが一部で復権しているわけです。
- カメラ業界でも同じで初期のデジタルカメラは10万〜30万画素程度で「おもちゃ」と呼ぶ人もいたのです。しかし、100万画素、200万画素と画素数が上がり、今では500万〜800万画素、1000万画素を超えるものまであります。聞くところによると400万画素ぐらいで撮影すればA3サイズぐらいまで引き伸ばしても人間の目には十分らしいので、画質では十分なレベルに達しているようです。1000万画素を超えるプロモデルなどはオーディオでのSuper Audio CDにあたるぐらいの性能があるわけです。今までは「デジタルカメラは現像が不要だしデータ送信で画像を送れるのは良いが、画質はまだまだ」と言っていた専門家たちも「アナログを超えた」と言い切り始めています。つまり、ハードとしてはデジタル化は終わり市民権は得られたと言えるのです。
- しかし、CDとカメラには決定的に違うところがあります。カメラと違ってCDは再生用なのです。つまり、レコードを販売せずにCDのみを売り出すようにすれば、CDの音質が不十分であっても半ば強制的にレコードからCDへ移行できました。しかし、カメラは記録用なのでそういう手法が使えなかったのです。そのため、カメラメーカは画素数が上がって銀塩カメラなみの画質が出せるまで消耗戦を強いられてきたのです。
- 古き良き銀塩カメラの時代には初心者はコンパクトカメラを使い、ステップアップしたい人は一眼レフを購入しました。そして、一眼レフはレンズが交換できるのでレンズを買い足し、フラッシュ、三脚、フィルター、カメラバッグとを買い続けることで業界全体が潤ったのです。もちろん、一眼レフを購入するユーザは一握りでしかありませんでした。それは一眼レフでの撮影が難しかったからです。しかし、その当時のカメラメーカは「自動化」により一眼レフ市場のすそ野を広げてきたのです。露出合わせを自動化する各種プログラムモードやピント合わせを自動化するオートフォーカスはカメラメーカの努力の証でした。そのまま銀塩の一眼レフが売れれば良かったのですが、「写ルンです」というフィルムカメラが発売されて大ヒットしてしまってからおかしくなったように思います。ローエンドのコンパクトカメラは売れなくなり、カメラにフィルムを入れることが面倒だからフィルムカメラが売れると勘違いしたカメラメーカはAPSカメラを商品化して対抗したのですが、結局ヒットしませんでした。フィルムカメラが売れたのは「使い捨ての手軽さ」がウケたのと画質を重視しなかったユーザが多かったからに過ぎなかったからです。
- そしてカシオからデジタルカメラが発売されて大ヒットしたのです。まだ10万画素程度の初期のデジタルカメラも現像いらずでスグ画像を確認できる手軽さがウケたのです。ここでも「画質より手軽さ」が選ばれたのですが、それはまだ銀塩カメラが確固たる地位を築いていたからです。その後、CCDの高画素化に伴ってデジタルカメラは高機能化し多くのユーザを獲得したのですが、ビデオカメラメーカなどの参入で過当競争になってしまったのは前述の通りです。さらにデジタルカメラで撮影しても現像・プリントしなくても見れるのでカメラ・ラボが儲からなくなりました。同時に銀塩の一眼レフはマニアのものとなってしまい新製品も発売されなくなってしまいました。もちろん一眼レフでもデジタル化は進んでいましたが、そちらでは100万円もするようなプロ用が中心で一般ユーザであるハイアマチュア向けのモデルは十分に展開できていませんでした。そう、一眼レフを頂点としたビジネスモデルが崩壊してしまったのです。
- さて、消耗しきったカメラ業界が復活するためには何が必要かというと、「一眼レフを頂点としたビジネスモデルの再構築」だと思います。やはり、ケータイで撮った写真や安いデジタルカメラで撮った写真はそれなりでしかありません。カメラメーカは美しい写真とは何か、どうすれば撮れるのか、そして、それが「デジタル一眼レフ」で可能であることをユーザに示さなければなりません。もちろん、こんなことはカメラ業界でもわかっていたはずで、今ではDPEショップやコンビニでデジカメプリントが簡単にできるようになっており、10万円程度で買えるデジタル一眼レフが発売され始めているのです。
- 前置きが長くなりました。今回のPhoto Imaging Expo 2005でカメラ業界は「デジタル一眼レフ」を全面に押し出し、デジタル化の完了を全面的にPRしているように感じました。私はExpoを回る時にはブースの展示品よりもステージに重きを置くようにしているのですが、各社のステージではデジタル一眼レフをイチ押しでPRしていたのです。2004〜2005年は後に「デジタル一眼レフ元年」と呼ばれるかもしれません。
- 10万円を切って購入できるデジタル一眼レフにはニコンのD70(600万画素)やキヤノンのEOS Kiss Digital N(800万画素)、オリンパスのE-300(800万画素)、ペンタックスの*ist DS(600万画素)などがあり、銀塩一眼レフメーカがそろい踏みです。その後、さらにニコンからはD70s(600万画素)とD50(600万画素)がペンタックスからは*ist DL(600万画素)、コニカミノルタからはα Sweet DIGITAL(600万画素)が発売されています。昨年までは安いモデルでも20万円ぐらいしていましたから、ようやく一般ユーザにも手が届くところまで来たと思います。実のところ、このPhoto Imaging Expo 2005の会場では皆さん自分のカメラを持ってきているのですが、デジタル一眼レフが非常に多くなっていて驚きました。特にニコンのD70は目立ちましたが、20万円クラスも含めて一眼レフが圧倒的に増えていたのです。
- ただ、ステージでいろいろ勉強してわかったのですが、デジタル一眼レフと銀塩一眼レフはかなり違うもののようです。デジタル一眼レフのユーザには当たり前のことかもしれませんが、私にとっては興味深かったので紹介しましょう。
- 銀塩の一眼レフの場合、画質を決める要素は「カメラ」「レンズ」「フィルム」「ピント」「露出」「シャッタースピード」「フィルタ」「現像」「プリント」といろいろありますが、デジタル一眼レフの場合には「カメラ」の比重が非常に大きいそうです。なぜなら、デジタル一眼レフの中には「カメラ」「レンズ」「ピント」「露出」「シャッタースピード」だけでなく、「フィルム」機能や「フィルタ」、「現像」機能も入っているからです。つまり、「プリント」機能を除いてデジタル一眼レフカメラは自己完結した製品なのです。
- まず、デジタル一眼レフは当然フィルムを使いませんが、そのフィルムにはいろいろ種類があります。ネガカラーかリバーサルかという違いもありますが、ここで問題になるのはデーライトタイプやタングステンタイプなどの光源に対する違いです。人の目や脳は順応性が高いので私たちはあまり気にしないのですが、太陽光と蛍光灯では色が異なっています。それぞれ色温度が異なるため、それに合わせた撮影をしなければ適正な色で写らないのです。
- 例えば、銀塩一眼レフの場合にはデーライト(晴天用)フィルムで曇天で撮影する場合には曇天用フィルタを使って調節します。フィルタを使わないと青っぽく写ってしまいます。しかし、デジタル一眼レフでは「ホワイトバランス」を合わせるだけで良いのです。これは一眼レフに限らずデジタルカメラには必ず設定することができるもので、通常はAWB(オート・ホワイト・バランス)という自動設定になっています。それを「晴天」「日陰」「曇天」「タングステンライト」「蛍光灯」と変更することも可能で、さらにマニュアル設定可能なカメラもあるのです。
- ステージでは「ホワイトバランスを適正に合わせましょう」という説明と「ホワイトバランスをいじって面白くしましょう」という説明の両方がありましたが、基本を押さえつつ変化をつけるのは必要なことのようです。私は今までこのホワイトバランスを全く意識していませんでしたが、設定を変更することで写真を青っぽくも赤っぽくもできることを学べたことは大きな収穫でした。
- もう1つ、デジタル一眼レフの中には「現像」機能が入っています。「画像エンジン」と呼ばれる部分がそれなのですが、各社「Digic Engine」とか「Venus Engine」などと愛称をつけて呼んでいます。ここでCCDやCMOSセンサーから読み込んだ画像データをJPEG変換などしてメモリに記録するのですが、その変換の「味付け」もカメラメーカ毎に異なっているそうです。先ほどフィルムの種類をあげましたが、同じデーライトフィルムでも「味付け」が異なるのと同じことです。私は色味がはっきり出るのが好きなのですが、リアルな色合いを好む人もいます。銀塩カメラなら好みのフィルムを使い、ラボに好みの現像をしてもらえば望む色合いに近づけることができます。しかし、デジタルカメラの場合には好みの色合いに撮れるカメラそのものを選ばないといけないのです。
- つまり、購入する前にどのように画像処理されているかショップでいろいろ撮影したり、メーカーのショールームで借り受けて試し撮りなどしてチェックした方が良いということです。これはカメラメーカーもわかっているようで、RAWモードを搭載するカメラが増えてきています。RAWとは画像処理する前の生データを意味します。つまり、デジタルカメラの画像処理が気に入らない場合にはRAWデータを自分でパソコンを使って画像処理することができるのです。しかし、RAWデータはファイルサイズが巨大なので多くの枚数を記録できませんし、数枚ならともかく、何十枚もパソコンで処理するのは面倒です。やはり、好む画像処理をしてくれるカメラをじっくり選んだ方が良さそうです。
- もちろん、デジタル一眼レフカメラには撮影時に「味付け」を調整する機能があります。「コントラスト」や「彩度」、「シャープネス」などが調整可能になっています。これらを有効に活用することで自分好みの「味付け」に近づけることができるそうです。ただし、やり過ぎは禁物なので、まずはカメラ本来の「味付け」をチェックした方が良いようです。また、「鮮やかモード」「ナチュラルモード」というように複数の「味付け」が可能なカメラもありますし、従来の「人物モード」「風景モード」などを拡張して「人物モード」なら肌色を美しく味付けし、「風景モード」なら緑を鮮やかに味付けするようなカメラもあります。それらも考慮してカメラを選ぶべきだということでした。
- さて、私もデジタル一眼レフカメラを購入する気になってしまったのですが、なかなか悩ましいところです。それについてはまたの機会にしましょう。