フォーサーズ雑記帳（バックナンバー）

アップルとオリンパス（その2）

• 同じ失敗を繰り返さないために、異業種であってもこのような過去の事例に学ぶことは重要なことだ。ユーザとしては複雑な心境だが、冷静に考えてみたい。既に済んでしまったこととはいえ、検証する価値はあるだろう。
• さて、アップルはMac OS 7.6、「Mac OS 8」、Mac OS 9、Mac OS X、とOSをバージョンアップしてきた。Mac OS 10ではなく、Mac OS Xになったのはここで大きくOSの中身が変わったことをアピールするためだ。それに対してマイクロソフトはWindows 95、Windows 98、というクライアントOSとWindows NT 3.5、 Windows NT 4.0、というサーバOSをWindows 2000で1本化したのである。
• ここで、OSを「レガシーOS」と「モダンOS」の2つに分けてみよう。ちなみに、「レガシー」とは「伝統の」とか「古い」という意味だが、ここでは「古くて、しがらみの多い」という意味で使っている。また、「モダン」は「新しい」という意味だが、「新しくて、しがらみから解き放たれた」という意味で使っている。どちらもパソコン業界の、というか、OSを表す際に使われる言葉で、アップルがMac OS Xを説明する時に使っていたものだ。
• まず、アップルのMac OS 7.6、「Mac OS 8」、Mac OS 9が、マイクロソフトのWindows 95、Windows 98がレガシーOSになる。そして、厳密ではないが、アップルのMac OS Xが、マイクロソフトのWindows NT 3.5、 Windows NT 4.0、Windows 2000がモダンOSと言える。Windowsは古くはMS-DOSから互換性を有しているので厳密には「モダン」ではないが、Windows 2000は強固なメモリ管理を行うことで安定動作する点では「モダン」と言えるのだ。

• さて、前説はこの程度にしてアップルのOS開発について書いてみよう。その当時アップルはレガシーで「爆弾マークを出してクラッシュする」Mac OS 7.6の次期モダンOSの開発に失敗してしまった。Mac OS 8(Copland)と呼ばれていたそのモダンOSはついに世に出ることは無かったのだ。そして、その後アップルが世に送り出した「Mac OS 8」は実際にはMac OS 7.7と呼ぶべきレガシーOSだった。 既にマイクロソフトはWindows NTなるクラッシュしないサーバOSを持っていたのに対して開発に失敗したアップルは窮地に追い込まれてしまった。そして、アップルはやむなく外部から全く新しいUNIXベースのモダンOSを持ち込む決断をしたのである。それが、Mac OS Xなのだ。つまり、Mac OSとMac OS XはOSとしては何の関係もないのである。そして、アップルはレガシーな「Mac OS 8」からモダンなMac OS Xへ橋渡しをするために中間的なMac OS 9を作ったのだ。このMac OSからMac OS XへのOS開発は奇跡的なことで、Mac OSのアプリケーションやユーザを「Mac OS 8」からMac OS 9、そして、Mac OS Xへ導いたことは画期的なことだった。

• それに対し、マイクロソフトはアップルより先行してモダンなWindows NTをリリースしていたが、これも外部から持ち込んだものだった。つまり、Windows 9xとは全くつながりはないのだが、見た目は同じように作り上げたのだ。ただ、当時はWindows NTはサーバ用、Windows 9xはクライアントPC用と区別していた。しかし、Windows 9xは95、98、98 Second Editionとバージョンアップしたもののレガシーなままでクラッシュするのは変わらなかった。クラッシュするのはWindows 9xもMac OSも設計が古くメモリ管理が不十分であることに原因があり、根本的に作り直さなければならないのは同じである。
• そこでマイクロソフトはWindows 9xとWindows NTを統合することにする。そして、生まれたのがWindows 2000である。ベースはWindows NTなのだが、Windows 9xのアプリケーションソフトが動くWindows 2000はレガシーとモダンのハイブリッドOSと言えるだろう。

• このMac OS XとWindows 2000はほぼ同時期に登場したため、メディアは新たなパソコンOSのシェア争いとあおったのだが、結果はご存知のとおりである。Mac OS Xの最初のバージョンの10.0は完成度が低く、Windows 98のユーザを引き込むどころか、Mac OS 9のユーザすら移行に躊躇するありさまだった。「奇跡的」と言われたOS開発ではあったが、細かな不具合は多々あったのである。対するWindows 2000もベースはサーバOSであったWindows NTであるため周辺機器との接続の互換性が不十分で同じく移行は進まなかった。マイクロソフトはやむなくWindows MeなるWindows 9x系のOSを急遽リリースすることになってしまった。つまり、どちらも最初からつまずいてしまったのである。
• そして、しばらくは泥仕合が続いたのだが、元々WindowsとMac OSのシェアには圧倒的な差があったわけで、結果として自力に勝るWindowsが圧勝したのである。確かにアップルはMac OS Xを改良し続け、10.1、10.2とバージョンアップするにつれて不具合は解消し、モダンOSのメリットが生きるようになっていた。しかし、マイクロソフトもWindows 2000のサービスパック1をリリースすることで問題を解消したのである。そして、アップルはシェア挽回の最大のチャンスを逸したのだ。

• これはOMシステムの末期とデジタル一眼レフの黎明期に良く似ていると思わないだろうか。オリンパスはオートフォーカス一眼レフの開発でつまづき、OM-4の次期モデルの開発に失敗した。当時、オートフォーカスは「ピント合わせが自動でできる」程度のレベルであり、オリンパスは最終的にはOM707なるAF一眼レフと数本のAFレンズを発売したものの、位置づけは「入門機」であった。しかし、キヤノンがEOSシリーズで高速オートフォーカスを製品化すると各社フラッグシップ機にオートフォーカスを搭載し、オートフォーカスレンズを揃え始めたのだが、オリンパスにはそれができなかったのだ。そのためオリンパスはシェアを落とし続け、最終的には年間3,200台まで販売数を減らしてしまった。そして、2001年1月17日にOM4 Ti BlackとOM-3 Tiの販売を終了してしまったのである。つまり、OMシステムを放棄したのだ。

アップルとオリンパス（その1）

• さて、マイクロフォーサーズ規格が8月5日に発表されて少し脱線してしまったが、話を続けよう。「システムカメラとレンズマウント」についてだが、ここからは具体的にアップルとオリンパスを比べてみたい。
• オリンパスのデジタル一眼レフカメラシステムであるE-SYSTEMはOMシステムとはレンズマウントの互換性がない。マウントアダプタを使えばOMシステムのレンズをE-SYSTEMで使うことが可能であるが、それはMac OS XのClassic環境のようなものに過ぎない。
• 他社は銀塩一眼レフカメラとデジタル一眼レフカメラのレンズマウントの互換性を維持しているが、オリンパスは「デジタル専用設計」という道を選び、レンズマウントの互換性を捨てたのである。一眼レフカメラはシステムで成り立っているので、互換性を捨てるということはシステムそのものを放棄することになる。そして、ユーザは新たに最初からシステムを買い直さないといけないのである。
• かつてアップルも同じような経験をしたが、その結果は惨敗だった。その時にはMac OS 9からMac OS Xに移行した人も確かにいたのだが、Mac OS 9にとどまった人やWindows 2000に乗り換えた人も多かったのである。逆に、Windows 98からMac OS Xに移行してくる人はそれほど多くはなかったのだ。そして、アップルは大きくシェアを落とし、多くのソフトハウスがアップルから離れていった。
• さて、これを当時のオリンパスに当てはめてみよう。同じように、オリンパスのOMシステムを使っていたからといって簡単にE-SYSTEMに移行するとは限らなかったし、他社のカメラユーザがE-SYSTEMに乗り換えることも多くは期待できなかったのである。そして、オリンパスは少ないシェアをさらに減らす危険性があったのだ。
• では、オリンパスはなぜこのような決断をしたのだろうか。当然ながら、ニコンやキヤノンのような多くのユーザを抱える企業には簡単にこのようなことはできない。しかし、アップルと同じくオリンパスのシェアはせいぜい5%程度しかなく、既にOMシステムは生産終了していたこともあり、ユーザに見限られてもやむなしと決断したのかもしれない。

マイクロフォーサーズ

• 書きかけている記事を中断してしまうが、マイクロフォーサーズの発表を聞いた印象を備忘録として残しておこう。人の記憶というものは曖昧で時間とともに変わっていくからだ。ここで第一印象と少し考えた後の落ち着いた状態での印象を分けて書き残しておきたい。
• 第一印象は「がっかり」である。マイクロフォーサーズという新たなレンズマウントを作るということはカメラメーカにとって経営資源(リソース)を分割することを意味する。フォーサーズとマイクロフォーサーズの2つのシステムを開発していくだけのリソースをどうして集中して使わないのか。オリンパスイメージング(オリンパス)はニコン、キヤノンに次ぐ、第三のデジタル一眼レフメーカになるべく事業運営をしていたはずだ。
• E-SYSTEMは第二世代になり、少しずつだが売れ始めている。しかし、オリンパスのデジタル一眼レフカメラのマーケットシェアはまだまだ低い。第三位のソニー(ミノルタ)に届かず、HOYA(ペンタックス)と四位争いを演じている状態である。確かに第二世代のフラッグシップであるE-3は発売されたし、3ラインあるレンズはとりあえず揃ってきた。しかし、E-3とE-520/E-420の間を埋めるカメラボディはまだ発売されていないし、揃ったとはいえ、レンズはズームレンズが中心で魅力的な単焦点レンズはほとんどない。これから生き残りをかけた血みどろの消耗戦になるであろう「デジタル一眼レフ戦争」が始まるというのに、何を考えているのか。マイクロフォーサーズ投入は第三のデジタル一眼レフメーカとしての地位を確固としてからではないのか。まだ早い。今はその時期ではないのだ。少なくとも私にはそう思えた。

• ただ、少し落ち着いてくると別の考えが浮かんできた。オリンパス以外のカメラメーカがマイクロフォーサーズを押し進め、オリンパスはフォーサーズに集中するというなら話は違ってくる。例えば、共同発表している松下電器産業(パナソニック)が推進するなら面白いことになるかもしれない。マイクロフォーサーズは規格としては大きな可能性があるからだ。
• パナソニックには最近「フォーサーズから撤退するのではないか」という噂があった。その噂の元はこのマイクロフォーサーズ規格なのだろうと思われるが、パナソニックがフォーサーズで儲けていないという現実がある。L1やL10は評価はされているものの売れていないように思える。これはオリンパスのE-330やE-510がベースになっていることが原因であろう。よほどのブランド力がなければユーザはオリジナルを購入するため兄弟機は売れないからだ。L1やL10は独自に面白い味付けをしているのに残念なことである。
• 私がパナソニックの担当者なら第一に「脱オリンパス」を進めるだろう。パナソニック・オリジナルのフォーサーズ一眼レフカメラを開発するのだ。しかし、ニコン、キヤノンの2強が75%のシェアを押さえているマーケットで、新参者のパナソニックが戦うのは辛いだろう。
• パナソニックにはオリンパス以外にもライカというパートナーがいる。ライカのMシステムは今でも多くの支持を受けているレンジファインダカメラである。そう、カメラは何も一眼レフだけではないのだ。デジタルカメラが世に出て進化を続けているが、基本はフィルムカメラと変わっていない。「デジタルならではの形があるはず」と言われて久しいが、なかなかそういうカメラが出てこない。それなりに歴史にもまれて今の形に落ち着いているからなのか、デジタル技術が発展途上のためにフィルムカメラを超えることが出来ないでいるのかはわからないが、ライカのM8のようなレンズ交換式のレンジファインダカメラが他にあっても良いのだろう。実際にはエプソンのR-D1sがあるのだが、R-D1sもM8も「マニアの高価なカメラ」から脱却できずにいるのである。まあ、高く売れているうちが華なのかもしれないが、ある程度の数が売れないとビジネスとしては先が見えないのだ。
• パナソニックとライカの関係がどうなるのか、フォーサーズ規格に賛同しているライカがマイクロフォーサーズにどう対処するのかは興味深いところではあるが、そのうちわかるだろう。

• それはさておき、マイクロフォーサーズ規格を見てみよう。以下はプレスリリースからの引用なのだが、マイクロフォーサーズのフランジバックが何mmでマウント径が何mmなのかわかるだろうか。ネットニュースもいくつか読んだもののよくわからない。レンズマウント規格というのは秘密の固まりのようだ。
  1. フランジバック（マウントと撮像素子との間隔）の短縮＝「フォーサーズシステム規格」の約1/2に短縮
  2. マウント径の縮小＝「フォーサーズシステム規格」より、外径を約6mm縮小
  3. マウント電気接点数の変更（9点⇒11点）
  • 撮像素子の対角長は、「フォーサーズシステム規格」「マイクロフォーサーズシステム規格」両規格で共通です。
• いろいろ調べてみたが、確かなことはわからない。フランジバックはフォーサーズが40mmでマイクロフォーサーズが20mmという記述が多いが、フォーサーズは38.5mmとなっているものもある。また、マウント径はフォーサーズが46mm〜47mmなのでマイクロフォーサーズは40mm程度のようだ。

• さて、細かいことは置いておいてオリンパスがプレスリリースで述べていることをまとめると、マイクロフォーサーズはクイックリターンミラーがない、ライブビュー前提の、4/3インチのイメージセンサを使った、レンズ交換式デジタルカメラ用の規格である。つまり、マイクロフォーサーズ規格のカメラにはレフレックス・ミラーがないので一眼レフカメラではなく、一眼カメラになる。ミラーがなければペンタプリズム/ペンタミラーを使ったファインダもない。だから、ライブビューが前提になるわけだ。つまり、レンジファインダカメラでもない。そして、APS-CサイズのシグマのDP1ほどではないが、コンパクトデジタルカメラよりも大きい4/3インチサイズのイメージセンサを採用しているのだ。
• さらに、発表資料によると動画撮影にも対応し、アスペクト比も4:3だけでなく、3:2や16:9にも対応する。しかし、現行のデジタルビデオカメラと比べてどういうメリットがあるのかは良くわからない。ビデオとカメラの2台が1台になるというのがメリットでは寂しい。
• もちろん、フォーサーズのレンズもアダプタを使えば利用はできる。しかも、OMマウントアダプタのようなメカニカルなアダプタではなく、電気接点やレンズを内蔵したリアコンバータのようなものらしい。かなり使えそうだが、マウント電気接点数が2つ足りないので機能制限があるようだ。加えて、現行のフォーサーズレンズはほとんどがコントラストAFに対応していないので、オートフォーカスが効くのか心配である。まあ、コンパクトさはスポイルされるわけなので、あえてフォーサーズレンズを使う必要もないのかもしれない。

• これはモロにエプソンR-D1sやライカM8と対抗するカメラの規格である。大きさも同等以下になりそうで、もちろん、フォーサーズのE-420と比べても小さいのだろう。発表では大きく重いデジタル一眼レフを敬遠してデジタルコンパクトカメラのユーザになった2000万人以上の潜在市場があるとしている。現在のデジタル一眼レフの販売台数が747万台なのでその3倍弱のマーケットがあるらしい。コンパクトカメラの技術革新も進んでいるので簡単ではないと思うが、まあ、夢を抱くのは自由である。(笑)

• さて、まとめに入ろう。いろいろ考えては見たものの私はマイクロフォーサーズを「現時点では」支持しない。もちろん、小型のデジタル一眼カメラシステムは欲しい。しかし、冷静に考えるとオリンパスとパナソニックだけでそのシステムを構築できるとは思えない。フォーサーズですらまだ足りないのに、それだけのリソースをつぎ込めるとは思えないのである。まだ発表されていない賛同企業が加わるのかもしれないが、そういうサプライズがなければ厳しいだろう。
• 私は「システムカメラとレンズマウント」という記事を書き始めているが、そこで痛感したのは「人は非常に保守的である」ということだ。確かに新しいもの好きの人もいるのだが、それはほんの一握りに過ぎない。ほとんどの人はそうではないのである。マイクロフォーサーズは「動画記録」という機能を用意したが、それでは「保守的な壁」を突き崩せないような気がする。

• そして、最後にこの印象の根幹にあるもの、それは、「何故オリンパスとパナソニックだけなのか」である。私はここにニコンやキヤノンが加わっていたら、あるいは、ソニーやHOYAが加わっていたら考えを変えたかもしれない。それで初めてオープン規格と言えるからだ。オリンパスはフォーサーズ規格の立ち上げで孤軍奮闘した苦しさを忘れてしまったのだろうか。デジタル一眼レフメーカだけではなくコンパクトカメラメーカなどどれだけの企業に根回しをしたのだろうか。
• かつて、ソニーが大失敗をしているが、規格策定は難しい。提唱企業には1日の長があるので、それを嫌う企業は賛同しないのだ。逆に提唱企業は早くマーケットを押さえてしまいたいと思っているので、策定中には情報は漏らさない。そして、規格が出来上がってから提案して回るのだ。そんなことをしていたらユニバーサルマウントなど出来はしない。単なる想像だが、オリンパスとパナソニックだけからの発表なのでそう思っても仕方がないのではないだろうか。

• これからマイクロフォーサーズの製品が出てくるだろうが、まずはお手並み拝見といこう。ライカの噂もあるし、Pen Digitalの噂もある。まあ、このぐらいにして、後は製品を見てからということにしよう。

システムカメラとレンズマウント(その3)

• 例えば、オーディオ・ビジュアル業界を見てみると、多くのメーカがAV機器をフルラインアップで揃えていたものの、A社はアンプ、B社はスピーカ、C社はチューナー、D社はテープデッキが得意とそれぞれ住み分けを図っていた。そして、ユーザは各社の製品を組み合せて使うことができたのだ。これはインターフェースが共通に規格化されていたからである。これは今でも同じことでA社の薄型テレビとB社のDVDレコーダは接続可能なのである。
• パソコン業界でも同じことである。現状ではWindowsとMac OSという違いはあれど、周辺機器はほぼ共通で使うことができる。ただ、OSの違いがあるのでアプリケーションソフトは共用できない。これは業界で淘汰が行われたからなのだ。パソコンの黎明期には各社は独自のアーキテクチャ、独自のOSを採用していた。しかし、電卓戦争ならぬ、パソコン戦争によって結果的にはIBM-PC/ATアーキテクチャとMicrosoft Windows OSが勝ち残ったのである。NECのPC-9801アーキテクチャは最後までPC-9821として存続していたが、もはや存在しない。アップルのMacintoshやMac OSが唯一の生き残りだが、これは独占禁止法のからみもあり、Microsoftに生かしてもらっているという感は否めない。

• つまり、あるマーケットが生まれる時にはさまざまな企業が参入するため、多くの規格が乱立するものの、最終的には1つにまとまるのが一般的なのだ。ビデオテープはVHSに一本化されたし、次世代 DVDもBlu-rayに一本化されたのである。これは弱肉強食の壮絶な企業間の争いの結果なのだが、なぜ、カメラ業界ではそうならないのかは興味深いところである。実際には多くのメーカが撤退しているので淘汰は始まってはいるのだが、ニコン、キヤノン、ソニー、HOYA、オリンパス、シグマ、パナソニックなどの企業が生き残っており、しのぎを削っている。
• さて、クローズドとはいうものの、レンズマウントを1本化する機会は何度かあった。しかし、どのカメラメーカもそのための努力をしなかったのだ。大きなポイントはオートフォーカスの導入時である。ミノルタがα7000で実現したオートフォーカス技術はレンズマウントの変更を余儀なくしたからだ。カメラボディ内のモータでピントリングを動かすにせよ、レンズ内のモータでピントリングを動かすにせよ、カメラボディとレンズ間で情報をやり取りするため、電気接点などが追加されたのだ。ミノルタと同じく、キヤノンもこの時にレンズマウントを変更しているのだ。しかし、結局レンズマウントは1本化されず、ヤシカ(京セラ)やリコーのように一眼レフカメラから撤退せざるを得ない企業が出てきてしまう。これも淘汰と言えるのだが、残念なことではある。パソコン業界では淘汰されたとはいえ、まだ多くのメーカが残っているのでユーザの選択肢が確保されているからだ。

システムカメラとレンズマウント(その2)

• どうしてカメラメーカは各社独自のレンズマウントを採用しているのだろうか。これは他のシステム製品に比べてかなり特殊なことだと言えるだろう。パソコン各社の製品に全く互換性がなかったらどうだろう。これはとても奇妙なことで、製品の黎明期ならあり得るかもしれないが、普通は統一されるべきものなのだ。そうでなければ、パソコンメーカは自社で全てのソフトウェアや周辺機器を提供しなければならないのだが、それは不可能だからだ。事実、パソコンの黎明期はNECのPC-9801シリーズやシャープのMZシリーズ、富士通のFM-TOWMS、日立のX68000、ソニーのHitBit、など、各社独自のパソコンを販売していたのだが、今ではIBM-PC/AT互換機(PC)に一本化され、唯一アップルだけがMacintoshをリリースしているという状況なのだ。ただ、PCとMacintoshは全く異なるものではなく、多くのインターフェースで共通規格を採用しているため、同じ周辺機器を使えるようになっている。つまり、心臓部分(OS)は異なってもインターフェースは共通になっているのである。

• 私はパソコン業界の黎明期を知っているが、カメラ業界の黎明期には生まれておらず、歴史に学ぶしかない。ただ、「歴史」になるには年月が浅過ぎるようで、よくわからない。確かにレンジファインダ・カメラではドイツのライカなどがデファクト・スタンダードであった時もあったようだ。そして、当時の日本メーカは「互換機」や「互換レンズ」という名の「模倣品」を生産販売していたようだ。その後、一眼レフカメラが生まれ、日本メーカが主導権を握っていくことになる。ドイツメーカはレンジファインダ・カメラの成功により一眼レフカメラに出遅れてしまったようだ。そして、その一眼レフカメラでは各社独自のレンズマウントを採用したというわけだ。
• うがった見方をすれば、かつて「模倣品」で商売していた日本メーカが模倣品を排するためにクローズドなレンズマウントを採用したとも思えるが、よくわからない。そもそもその時点で一眼レフカメラがレンジファインダ・カメラに打ち勝ってここまで売れると思っていたとも思えない。そもそも、黎明期はそういうもので、デファクトスタンダードがなかったため、結果的に各社バラバラのレンズマウントが乱立したように思われる。

• 高度経済成長期などの好景気には一眼レフカメラは多く売れていた。そして、各社から多くのレンズが発売され、売れていたのだ。当時は画像記録手段がカメラぐらいしかなかったので一眼レフカメラには競争相手がほとんどなかった点もプラスに働いていただろう。年月の積み重ねが各社のレンズラインアップを増やしていったわけで、各社とも少なくとも30本程度のレンズを用意していた。当時はズームレンズの性能はそこそこだったので、価格メリットもある単焦点レンズが多く売れていたのだ。その単焦点レンズには標準レンズ、広角レンズ、望遠レンズ、超広角レンズ、超望遠レンズ、マクロレンズ、魚眼レンズ、など焦点距離が違うレンズが顔を揃え、さらに、開放F値の異なるレンズもあり、大型の明るいレンズと暗いが小型のレンズの２系統あるのが当たり前だった。
• ただ、こういった既成事実が一眼レフのレンズマウントをクローズドなものにしていったのだろう。システムが大規模になればなるほど1本化は難しくなるからだ。結果としてそれがユーザの囲い込みにつながっている。そして、ニコンのあるレンズが気に入ったとしてもカメラボディがキヤノンだった場合には使うことができないという異常事態が続いている。

システムカメラとレンズマウント(その１)

追伸。D700

• あえて書かなかったことを備忘録として残しておく。D700には価格や重量以外にも残念なポイントがあった。それはファインダの視野率が100%ではなく95%であることと望遠系のレンズの画角がそのままであることだ。
• まず、D700はニコンのフラッグシップではない。そのため、ファインダの視野率が95%に押さえられている。公式にはダストリダクションシステムを組み込んだため、トレードオフとして視野率が95%になってしまったと言われている。しかし、私は阿部秀之氏の「ニコンはフラッグシップにしか視野率100%を与えない」説を支持する。フラッグシップには他には無い特別な機能があるからフラッグシップなのだ。まあ、フラッグシップが1つである必要はないとは思うのだが……
• 次に、フォーサーズは135サイズに換算すると焦点距離が2倍になる。APSは同じく1.5倍になる。しかし、D700は135サイズそのものなので広角の14mmはそのまま14mmなのだが、望遠の200mmもそのまま200mmなのだ。先日の比較表を見て「？」と思った人もいるだろうが、ニコンは200mm止まりなのに対してオリンパスは同じ200mmとはいうものの135サイズ換算で400mmまでカバーしているのである。私は広角使いだったのだが、ZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8-3.5 SWDを購入したことにより望遠も使ってみようという気持ちになっているのである。
• こうして考えるとオリンパスのフラッグシップである、E-3を購入したのも納得である。そして、望遠系レンズの焦点距離についてはD700の欠点ではなく、それこそ仕様なのだ。

• もう1つ、ニコンはまだまだデジタル対応レンズのラインアップが薄いようだ。キヤノンに比べて大幅にリニューアルしているものの、まだ2ラインしかないのだ。それに対し、オリンパスはニコンに比べてレンズのデジタル化に一日の長があり、SUPER HIGH GRADE、HIGH GRADE、STANDARDの3ラインあるのである。先日の比較表でニコンのレンズが高価になってしまったのはこのためでもあるのだ。
• ただ、「ニコンはこれからさらにレンズに力を入れ、単焦点レンズもデジタル対応にリニューアルされる」という噂もあるとおり、本気になったニコンには期待させられる。AF-S NIKKOR 14-24mm F2.8G EDのようなレンズが多数出てくれば、オリンパスのHIGH GRADEクラスのレンズが揃えられたら……興味は尽きない。

私にとっては遅すぎた...Nikon D700、なのか

• Nikon D700が発表され、7月25日に発売される。正直なところ、詳しいところはわからないが、良いカメラだと思われる。このカメラが1年前に出ていたら……と思わずにいられなかった。135サイズのイメージセンサを採用し、防塵防滴、ダストリダクション、AF-S NIKKOR 14-24mm F2.8G EDがそのままの画角で使えるのだ。高感度特性に優れ、3D-トラッキングのような高速オートフォーカスを誇る。そして、D3に比べて軽くて小さい。これは欲しい。
• しかし、私は既にE-SYSTEMを購入してしまっている。さすがに2つのシステムを併用するような器用なことはできないのだ。少し冷静に考えてみよう。ニコンは好きなメーカの1つなので使いたいと思うのだが、毎回断念している。OM-4を購入した時にはF3を検討したし、E-3を購入した時にはD3を検討した。しかし、結局のところ「高くて買えない」のだ。
• 私が欲しいというシステムをちょっと比べてみよう。価格は現時点のカメラ量販店価格でポイントバックは含んでいない。

  Nikon			OLYMPUS
  D700	\328,000	995g	E-3	\168,000	810g
  AF-S NIKKOR 14-24mm F2.8G ED	\228,400	1,000g	ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F4.0	\198,800	780g
  AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8G ED	\218,400	900g	ZUIKO DIGITAL ED 12-60mm F2.8-4.0 SWD	\99,900	575g
  AF-S VR Zoom-Nikkor ED 70-200mm F2.8G（IF）	\226,800	1,470g	ZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8-3.5 SWD	\117,600	995g
  合計	\1,001,600	4,365g	合計	\583,500	3,160g

• こうして比べてみると、価格も重量も大きな差があることがわかる。ニコンのカメラには「あこがれ」があるのだが、やはり手がでない。やはり、E-3とD700が同時に発売されたとしても私はE-3を選んだだろう。「貧乏人」と言われても仕方がない。私はプロではないのでそこまでカメラにお金をかけられないのだ。まあ、タダで差し上げますと言われたら、筋トレ覚悟で喜んで戴くのだが……
• 最後に、ひとこと書いておきたい。DXフォーマット(135サイズ)には「よくボケる」というアドバンテージがあるが、フォーサーズには「シャープに写る」というメリットがある。DXフォーマットはイメージセンサが大きいので高感度特性に優れているが、フォーサーズにはシステムを小さくできるメリットがある。それぞれにメリットがあり、どちらが優れているというものではなく、別のものなので比較すること自体がナンセンスなのかもしれない。

ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F4.0

• オリンパスが小梅の超広角ズームを発表した。ZUIKO DIGITAL ED 9-18mm F4.0-5.6である。かなり前からロードマップに入っていたレンズであるが、ようやく発表されたというわけだ。ただ、発売は「年内」なのでまだまだ先のことではある。E-420やE-520と小梅レンズは小型の一眼レフシステムとして大きなアドバンテージを持っているが、さらに強力になったということだ。ただ、私は既にE-3を選んだのでそちらの話をしよう。ここではZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F4.0を取り上げたい。
• フォーサーズマウントの超広角ズームレンズである、このZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F4.0はお気に入りのレンズである。このレンズに出会ったことがE-3購入の大きな後押しになったのは間違いない。フォーサーズシステムのレンズは135サイズに換算すると焦点距離が2倍になるので、望遠系のレンズには有利なのだが、逆に広角系には厳しい。オリンパスがE-SYSTEMをスタートした当時には「超広角レンズは作れない」と言われていたのだが、それに対するオリンパスの答えがこのレンズだったというわけだ。さすがにエンジニアと職人の意地が感じられる。
• さて、このレンズは135サイズ換算で14-28mmなのだが、厳密には少し違う。私が最初にこのレンズを覗いた時に「本当に14mmなのか？」と驚愕したのだが、実際に使ってみて違いに気がついた。135サイズは縦横比が2:3であるのに対し、フォーサーズは3:4である。つまり、135サイズに対して縦方向(短辺)で長く、横方向(長辺)で短いのだ。レンズは円形のため、正方形に近い撮像素子の方がレンズの光学性能を活かせる。フォーサーズもそうだが、コンパクトデジタルカメラも同じく3:4の撮像素子を使っているのにはそういう理由もあるのだろう。例外はデジタル一眼レフで、フィルムカメラとの互換性を優先したため135サイズと同じく2:3のサイズになっていると思われる。
• 勝手な想像はさておき、3:4のファインダを覗くと少し世界が変わる。私は最初の一眼レフがPEN-FTだったこともあり、縦位置撮影が多いのだが、横位置でも撮れるようになってしまった。どういうことかというと、例えば、ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F4.0の広角側の7mmは135サイズ換算で14mmというのは対角線での画角によるので嘘ではない。しかし、フォーサーズの3:4の撮像素子には135サイズと同じ縦横比では縦方向(短辺)では14mmより広い範囲が写り、横方向(長辺)では14mmより少ない範囲しか写らないのである。そのため、縦方向(短辺)の広がり感を強く感じるし、135サイズなら切れてしまうところまで写せるからだろう。
• 能書きはこの程度にして、撮った写真を何枚かお見せしよう。私はまだRAW現像を行っていないので撮り貯めたJPEG画像をOLYMPUS Masterでリサイズしただけの画像である。RAW画像をベースにすれば良いのだが、なかなかMacBookへの環境の移行が進まないのでとりあえずそのままアップすることにした。そのうち画像を差し替えるかもしれないが、雰囲気ぐらいは伝わるのではと思う。

2007/11/25		汐留
E-3	ED 7-14mm F4.0	7mm F4.5	1/125	±0.0EV	ISO100

2007/11/25		新橋
E-3	ED 7-14mm F4.0	7mm F5.6	1/400	±0.0EV	ISO100

2007/11/25		銀座
E-3	ED 7-14mm F4.0	7mm F5.0	1/200	±0.0EV	ISO100

2007/12/08		新横浜
E-3	ED 7-14mm F4.0	7mm F4.0	1/200	±0.0EV	ISO100

2007/12/08		新横浜
E-3	ED 7-14mm F4.0	7mm F5.0	1/100	±0.0EV	ISO100

2007/12/15		レインボーブリッジ
E-3	ED 7-14mm F4.0	12mm F5.0	1/800	±0.0EV	ISO100

2007/12/15		レインボーブリッジ
E-3	ED 7-14mm F4.0	14mm F5.0	1/640	±0.0EV	ISO100

2007/12/17		横浜赤レンガ倉庫
E-3	ED 7-14mm F4.0	7mm F5.6	1/500	±0.0EV	ISO100

2007/12/17		ヨコハマ グランド インターコンチネンタル ホテル
E-3	ED 7-14mm F4.0	14mm F5.0	1/320	+1.0EV	ISO100

• 135サイズ換算で14-28mmというズームレンズは他の追随を許さない驚くべきもので、この超広角エリアはZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F4.0の独壇場だったが、ニコンが2007年11月30日にAF-S NIKKOR 14-24mm F2.8G EDを発売したことでようやく比較対象ができたことになる。2005年3月に発売されたZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F4.0と2年半以上後に発売されたAF-S NIKKOR 14-24mm F2.8G EDを比較する、フォーサーズと135サイズを比べるということに厳密な意味はないのだろうが、同じデジタル設計の超広角ズームレンズとして興味は尽きない。

• さて、野暮ではあるが、どのぐらいの歪みがでるのか簡単なテストをしてみよう。ただし、三脚を使わずに手持ちで撮影しているので厳密なものではない。当然ながらこのレンガ壁にきっちり正対しているわけでもなく、レンガも100%水平垂直に積まれているものでもない。あくまでも雰囲気を感じていただければと思う。

  ED 7-14mm F4.0　(7mm)	ED 7-14mm F4.0　(14mm)
  ED 12-60mm F2.8-4.0　SWD　(12mm)	ED 12-60mm F2.8-4.0　SWD　(60mm)