基調講演(アップルが創る新しいパラダイム)
3日目に開催された無料の基調講演。初日の基調講演を上回る盛況でした。アップルコンピュータのワールドワイドプロダクトマーケティング担当の副社長フィル・シラー氏の講演。ステージには1組の Power Macintosh G4 と Cinema Display、iBook 一台と Studio Display が4台用意されている。「アップルはユーザが愛する製品を創れるから素晴らしい。アップル社員は自分達のやっていることを気にいっている者ばかりだ。」と講演をスタート。
QuickTime - Digital Video on PC -
- QuickTime 4 は5月にβバージョンをリリースして夏にファイナル版を出した。Live Internet Streaming が可能。今までに1300万本ダウンロードされ、これは最多記録である。
- QuickTime TV は1ヶ月前に発表した。テレビには必要な物が4つある。テレビ受像機とテレビ局、放送網、番組である。 それをアップルは次のように置き換えた。QuickTime Player、RTP/RTSP サーバ、インターネット、コンテンツ、これらで QuickTime TV を実現している。
- RTP/RTSP サーバとは Real-Time Protocol/Real-Time Streaming Protocol サーバのことで、QuickTime Streaming サーバで実現する。これは Mac OS X Server に無料でバンドルされている。オープンソースで提供している Darwin でも Darwin Streaming Server として無料公開しており37000本もダウンロードされている。他にもストリーミングを提供するシステムがあるが専用サーバを買わないとならない。これは大きなアドバンテージだ。
- インターネットはテキスト用に開発されたネットワークなので動画配信には遅すぎる。しかし、全世界に張り巡らされているのが魅力。できるだけ遅延を起こさないために全世界にストリーミング・サーバを分散し、近いサーバに自動接続するような方法で遅さをカバーしている。そのため Akamai 社と提携した。Akamai 社のサーバは全世界にあるからだ。
- コンテンツもニュース、金融情報、天気予報、映画のプロモーション、スポーツ、……とさまざま用意している。ニュースは録画ではなく LIVE である。TV と同じニュースを世界中どこにいても見ることができる。
QuickTime デモ
- (STAR WARS Episode I 予告ムービーを見たことのある人は?と聞かれてパラパラと手が上がる。それを見て)アメリカだったら全員手を上げるのにね。世界中で2500万のもダウンロードがあったムービなので帰ったらダウンロードして見て下さい。(このあたりはまだ観衆ものっておらず反応が鈍い。しかし、この後盛り上がっていく)
- デモは「リスキー」と言うだけあって失敗したりしながらもライブでニュースやスポーツ番組、映画のプロモーションを流した。しっかり PIXAR の ToyStory 2 の予告編も見せてくれた。
- 私は QuickTime 4 Pro を持っているのだが見たことがなかった。クオリティは素晴らしい。ダウンロードして再生しているのではなく、ライブでダウンロードしながら再生しているのだ。これで回線速度が上がり、CPU パワーが上がればフルスクリーンで TV のように見れるようになるのだろう。
Mac OS 9
- Mac OS 9 は10月にリリースされるメジャーバージョンアップだ。50以上の新機能が追加になっており、Your Internet Co-Pilot(あなたのインターネットの副操縦士)がキャッチコピーだ。大きな9つの機能について説明する。説明はアップルジャパンの櫻場さんのデモとともに進行し、会場は大いに盛り上がった。やはりこうでなければ面白くない。
- Sherlock II
- QuickTime 4 と同様にチャネルを用意した。今までの Sherlock の機能に加えて E-Commerce 対応のショッピングチャネルを検索をするとヒット率順ではなく、価格・納期順に表示される。
- 日本語用のコンテンツも準備中だ。例えば「毎日インタラクティブ」という毎日新聞の記事検索システムがある。
- Multiple Users
- ログインすると登録したユーザ毎の環境設定で起動する。デスクトップピクチャが変わったり、専用のフォルダが表示されたりする。他のユーザがログインしてもこのフォルダは表示されない。
- Voice Print Password
- ログインのパスワードにはテキストだけでなく声紋を使える。これは言語依存性がないので日本語・英語関係なく使える。
- Keychain
- いろいろなパスワードがある。インターネットアクセス、E-mail、……最初にログインしたらそのユーザの全てのパスワードが管理されているのでいちいちパスワードを入力する必要がなくなる。
- Auto Updating
- 説明はなかったが Windows 98 などにあるインターネット経由で自動的に Mac OS をアップデートする仕組みだと思われる。
- Encryption(暗号化)
- OS として暗号化をサポートしている。E-Commerce などには必須である。
- File Sharing over Internet
- インターネット経由でファイル共有が可能。
- よくわからない。
- Apple Script over TCP/IP
- ネットワーク経由で Apple Script が使える。
- よくわからない。
- Network Brouser
- ネットワークブラウザという便利な物も用意した。
- 今のネットワークブラウザは何なのだろう?
- 駆け足の説明であり、私には十分理解できなかった。来月の Macintosh 情報誌に詳しく解説されるであろう。Mac OS 9 は今日(1999年9月9日)から Apple Store でオーダー可能で12,800円($99)である。メジャーバージョンアップなのでアップグレードは設定されていないようだ。まあ、当然である。Mac OS はアップルの重要な収入源であるからだ。Mac OS の利益を元に新たな開発を行っていくわけだからヒットして欲しいものだ。
4つの製品群について
- 4つの製品群は以下の通り。Prosumer という言い方はなくなったようです。
| Consumer | Pro |
Desktop | iMac | Power Macintosh G4 |
Portable | iBook | PowerBook G3 |
iMac について
- 1月から5色になった。昨年の8月15日に発売され、1年間で200万台売れた。
- ユーザの90%がインターネットに接続している。さらに E-Commerce もしている。
- アメリカではユーザの33%が初めてのパソコンとして購入している。日本では50%のユーザが初めてのパソコンとして購入している。(初日の基調講演での原田社長の発言と少し異なる。私の聞き違いか同時通訳ミスと思われる。)
- iMac 発売後、4,380本の新しい、あるいはバージョンアップしたアプリケーションが発売された。
- それにハードウェアを加えると15,000種類以上の製品が発売されている。
- 私見だが、できればアップルがこれらデベロッパに対してどのような支援を行っているのかを説明して欲しかった。もしかしたら何もしていないのかもしれないが……かつての NEC やアップルはソフトハウスや周辺機器メーカをとても大切にした。だから独自のプラットフォームでありながら一定のポジションをキープできたと思う。
iBook について
- 「iMac to Go !」のキャッチコピーにある通り、持ち運びのできる iMac として開発した。
- AC アダプタはオシャレでインジケータの色で充電状態がわかる。またハンドルもついている。カーボングラファイトの材質も素晴らしい。
- iMac はディスプレイに最も力を入れて開発した。iBook も同じで TFT LCD を搭載しグラフィックエンジンも素晴らしい性能だ。
- スペックも十分で 300MHz の Power PC G3 を搭載しており世界第二位の高速さだ。当然第一位は PowerBook G3 である。24倍速の CD-ROM ドライブや3.2GB のハードディスク、56k モデム、10/100 Mbps の Ethernet、USB などがオールインワンになっている。
- キーボードはフルサイズでバッテリは6時間使用できる。
- 本体価格は198,000円で10月上旬に発売する。日本以外では既にオーダーを受け付けており既に14万台以上のオーダがある。
- ただ、説明の中で一回も重さの話題はなかった。やはり、常時持ち歩くような用途を意図したものではないようだ。省スペースデスクトップという位置付けらしい。iMac に液晶モデルが噂されているが、私は疑問を持っている。それは iBook ではないのかと思われるからだ。あえて iMac にまで同じようなコンセプトを当てはめる必要はないだろう。
AirPort について
- 11Mbps の無線 LAN(Wireless LAN) を提供する。これは業界標準(Industry Standard)である IEEE 802.11 に準拠している。(つまり、アップルの独自規格ではない。)10台までの iBook を同時に接続可能で有効半径は45m(150フィート)である。
- これは Lucent Technology 社と共同開発してもので通信は暗号化して行われるのでプライバシーも守られる。
- AirPort Base Station は 56k モデムポートと10Mbps Ethenet ポート、AC アダプタポートを持ち、38,000円である。AirPort Card は12,800円である。iBook と合わせて購入しても25万円以下で購入できる。アップルにしてはかなり安く設定したようだ。為替レートを理由に高いという人もいるようだが私もこれだけの性能であれば十分に安いと思われる。
- Mr. Jobs と同じようにインターネットを見ながらフラフープの輪をくぐり抜けて無線であることをアピールするなど大サービスで観衆も拍手喝采だった。
PowerBook G3 について
- 軽い、5時間以上のバッテリライフ、DVD 再生可能など、説明は軽く流された。
Power Macintosh G4 について
- クレイコンピュータらしきものを示して「スーパーコンピュータのスーパーって何?」と尋ねる。アップルの答えは「Giga FLOPs を実現するもの」だった。
- Giga(ギガ=G)はMega(メガ=M)の1,000倍である。1,000MB のハードディスクとは言わずに 1GB のハードディスクと言う「ギガ」と同じである。1G=109=10億であり、1G FLOP とは浮動小数点演算を1秒に10億回行うことができるということだ。浮動小数点演算は通常の整数演算以上に高度な演算で多くの CPU パワーを必要とする。
- この Giga FLOPs のイメージがわかないかもしれないので例を示そう。例えば、2000pixel×2000pixelの画像には4,000,000(4M)の pixel がある。これに Photoshop でフィルタをかける処理をすると、1 pixel あたりに400回の命令を実行する。そうすると4M×400=1.6Gとなる。これを1秒で実行するなら CPU には1.6G FLOPs の能力が必要である。
- 今度は QuickTime の動画再生の場合である。1秒に30フレームの通常のムービーの場合、1フレームが 300,000(0.3M) pixel ならば、1 pixel あたりに200回の命令を実行する。そうすると、30×0.3M×200=1.8G となる。これをリアルタイムで再生する、つまり、1秒で再生するには 1.8G FLOPs の CPU パワーが必要になる。
- これらの作業をスーパーコンピュータで実施するには1時間当たり$1000 のコンピュータ使用料が必要である。それが Power PC G4 では簡単に実現できるのだ。まさに「Super Computer on Chip」である。この G4 Chip は 1G FLOPs 以上の能力を持続できるし、ピークでは 4G FLOPs の能力を持つ。
- なぜ、Power PC G4 は速いのだろうか。それは Velocity Engine を持つからである。Velocity Engine は128ビット幅でデータ処理できる。これはアップルとモトローラ、IBM により開発された。最新の Pentium III(600MHz)とインテルのベンチマークに合わせて比較すると、500MHz の Power PC G4 は平均で2.94倍の能力を持っている。(今まで BYTE Mark など Macintosh に有利なベンチマークをしていると非難されていたのがくやしかったのだろう。完全にインテルに合わせてベンチマークをしていた。)
- Power Macintosh G4 は400MHz、450MHz、500MHzの3種類があり、全てに1M の L2 Backside cache を搭載している。メモリ幅は3倍(?)、PCIバス幅は2倍、AGP 2x、Ultra ATA/66 を搭載している。FireWire で Desktop Video が可能、アンテナ内蔵なので AirPort Card を入れれば無線 LAN も可能。
- クリア・シルバー・グラファイトという美しいデザインで198,000円から購入できる。Apple Store では8000種類の組み合わせから選ぶことができる。
Power Macintosh G4 デモ
- Photoshop 5.5 はプロセッサ用に最適化されている。つまり、Windows 版なら Pentium III に最適化されており、Power Macintosh G4 にも最適化できる Plug-in が標準添付されている。これを使ってメモリ搭載量など条件を同じにして速度比較を行う。
- Power Macintosh G4(500MHz)対 Pentium III(600MHz)では G4 が2倍も速かった。これまでの比較では多少速いかという程度で同じ周波数ならもっと速いだろうなあと想像するしかなかったが、今回は違った。全く速度が違う。フィル・シラー氏も「たいくつと思いますが、毎日このマシンを使っている人もいるのです。彼らの気持ちになってみて下さい。」と会場を笑わせながら気長に Pentium III マシンの処理が終わるのを待っていた。待つのが苦痛になるほど速度が違うのである。
- 次に Media Cleaner Pro(Media Cleaner G4)という動画圧縮ソフトでのデモを行った。Digital Video カメラから取り込まれた映像を MPEG-4 で圧縮する速度を比較するのだが、Power Macintosh G4 はほぼリアルタイムに圧縮できたのに対し Pentium III マシンでは半分の速度しかでなかった。つまり、圧縮した画像が再生されるのだが、G4 ではほぼオリジナルと同じ速度で再生されているが Pentium III ではスローモーション再生に見えるのだ。
- 最後に RSI 社(Research Systems Inc)の Scientific Imaging Software という科学演算用のソフトでの比較を行った。火星の峡谷の地形観測データを元に 3D Graphics をレンダリングする(書き起こす)のだが G4 の方が6倍も速かった。プローブという観測機器が峡谷を疾走するのだが、G4 に比べて Pentium III ではスローモーションというよりコマ送り再生という感じでしか実行できなかった。フィル・シラー氏も「待っていられませんね。」と止めてしまうほどだった。
ディスプレイについて
- 既存のディスプレイも G4 カラーで発売する。加えて Ultimate Companion として Cinema Display を発売する。これは 22インチの液晶ディスプレイで 24インチの CRT モニタと同じ表示領域を持つ。そして、従来の液晶ディスプレイに比べて、2倍明るく、2倍シャープでコントラストレシオは3倍である。また、フリッカ(ちらつき)もない。映画サイズの1600×1024を表示可能で、Power Macintosh G4 からデジタルで画像を受け取れる。
- 10月に発売するが、十分な数を作れないので Apple Store で限定販売する。Power Macintosh G4 とセットで Ultimate Companion として販売し、450MHz 版で816,000円、500MHz 版で926,000円である。
- デモも非常にきれいで表示エリアが広く、DVD もスムーズに再生されることがわかったが、テレビカメラごしの映像だったので真価は伝わらなかっただろう。生で見るべきだと思うのだが、Apple Store 限定販売なのでそのチャンスはない。アップルを信じて買いなさいということか……?
個人的感想
さすがに Macintosh ユーザが多かったのだろう、最初こそ静かだったが次第に盛り上がり Mac World Expo 並みの盛り上がりとなった。G4 の速さも実感できたし十分な内容だったろう。ただ、Mac OS X などの説明はなかった。限られた時間であるので仕方なかったのだろう。事実アップルブースのステージでは Mac OS X の説明もされていた。やはり、Mac World Expo とは勝手が違うようだ。アップル製品がもっと売れればそれなりの裁量権が得られるのだろうか、それともスポンサー料を増やせば良いのだろうか。
余談だがアップルはこの講演参加者にTシャツをプレゼントしてくれた。たいへんうれしいことなのだが、そこまでしてくれなくても十分なのだ。無料でこれだけ素晴らしい講演(ショー)を見れたのだから。これだけの内容なら入場料を取られても満足できるものだ。まあ、聞きに来てくれてありがとう、ということなのだろう。ありがたいことである。