Windows World Expo Tokyo '99 Report

　Windows World Expo Tokyo は今年で8回目です。私が行くのは今回で4回目になります。今年も1999年6月30日から7月3日まで幕張メッセで開催されました。
　レポートを公開するのが遅れたため、この情報には何ら新規性がなく個人的な忘備録になってしまいました。ここに残すのは来年に読み返すことで「約束が守られたか」「期待の新製品のその後はどうなったか」などがわかるからです。パソコン業界は動きが速く、何が起こったかを記憶にとどめておくことが困難なのです。

　Micorosoft Office 2000 担当副社長 スティーブン・シノフスキー氏によるもうすぐ登場する Office 2000 の PR が中心でした。

• 日本のPC市場と Microsoft Office の動向
  • 日本のPC市場は1999年に1000万台/年になり、そのうち40%を家庭用が占める。
  • Microsoft Office は発売以来全世界で1億ライセンス以上出荷されている。
  • そのうちOffice 97は5000万ライセンス以上を占めている。
• Office 2000はユーザの以下のリクエストを受けて開発
  • Web を利用したコラボレーションと情報共有
  • 強力な分析機能と意思決定支援
  • 使いやすさと管理のしやすさの向上
• （シノフスキー氏はこれがマイクロソフトの勝手なバージョンアップではなく、あくまでもユーザの要望を盛り込むためものであったことを強調していた。）
  • これは Office 97 登場時に旧バージョンとのファイル互換がとれなかったりしてユーザの不満が爆発した失敗を踏まえたものであろう。あの失敗で Office 95 から Office 97 へのバージョンアップを中止した企業や個人ユーザが増えてしまったのは確かだ。
  • その後のバグフィックスモジュールの提供や西暦2000年問題に Office 95 が不完全にしか対応していなかったことにより Office 97 の売れ行きは回復したのだが、マイクロソフトは手痛い教訓として心に刻んでいるのだろう。
  • 失敗に学ぶことは簡単なようで難しい。同じ失敗を何度も繰り返している企業はたくさんある。さすがにマイクロソフトは違う。
• Office 2000 は Office 97と完全ファイル互換
  • Office 97 のファイルとは完全互換。マクロも同じく完全互換である。
  • 主要なファイル形式の一つの HTML 形式を強化。（XML、CSS2.0 を利用）
  • この HTML 形式により Office 2000 で作成したファイルをそのままホームページにすることができる。
• （シノフスキー氏は当然ながらこのファイル完全互換を強調していた。）
  • 後に聞くところによると Office 2000 で作成したファイルは Office 97 でも開くことが可能らしい。
  • Office 97 では HTML との親和性を増すために大きくファイルフォーマットを変更したが、それをベースにした Office 2000 では問題は起きないそうだ。
  • 一時は完全に HTML 準拠のファイルフォーマットに変更されると言われていたが、旧バージョンとの互換性を最優先しオプション的に HTML 形式を強化したわけである。とても現実的な選択だ。
• Lotus Notes R5 に対抗するグループウェア機能を強化
  • Back Office サーバなどと連携させれば Office 2000 のファイルをグループ内で共有可能になる。
  • サーバが提供する専用のホームページを使って共有することが可能でカスタマイズもできる。
  • Outlook と一体化してメール、スケジュール、ホームページ、などを一括管理可能。
• （マイクロソフトはこれを「デジタルダッシュボード」と名づけている。）
  • 「ダッシュボード」とは航空機のコックピット計器盤のこと。
  • 空を飛ぶ飛行機には方向を決める目印がない。そのためパイロットは計器盤情報を頼りに飛行機を操縦している。それにあやかって、これを業務に関する情報の集積場にしようとしているようだ。
  • ここで必要な情報をタイムリーに提供することで意思決定を補助するのが目的。
  • マイクロソフトは Exchenge サーバで Notes に負けて以来、再戦の機会を狙っていたのだろう。ただ、既に Notes のコンテンツを多く蓄積している企業にアピールするには目玉がないような気がする。
• 新しくマイクロソフトインストーラを開発
  • 今までのアプリケーションは誤って部品であるファイルを消してしまったら起動しなかった。
  • このインストーラは誤って消されたファイルや壊れたファイルを見つけると自動的に再インストールする。
  • 極端な例では「winword.exe」を消してしまっても、Word文書ファイルをダブルクリックすれば「winword.exe」を自動的に再インストールしてWord 2000が起動する。
  • また、全てを最初にインストールする必要も無い。初めて使う時に自動的にインストールを始めるように設定できる。これでシステム管理者の手間が軽減される。
  • （これは Office 98 Macintosh Edition で開発されたインストーラ技術の Windows 版だと思われる。）
• その他
  • English Language Kit をインストールするとマルチリンガルをサポート可能。
  • メニューが英語表示に変わる。しかし日本語は入力可能。
  • （うーん。今まで Windows にマルチリンガルサポートが無かったなんて……？？）

　パーソナル IT ネットワークカンパニー プレジデント ＆ COO 安藤国威氏による特別講演であり、基調講演で空席が目立ったのに対しこちらは超満員だった。日本のパソコン界の力関係を表している気がしました。

• ソニーのパソコンビジネスの方向性
  • これからソニーはネットワーク時代のPC、AV、通信の融合による新しいライフスタイルを提案する。
  • VAIO は Video Audio Integrate Operation の略でそのコンセプトで進めてきた。
  • このコンセプトはアメリカでも評判が良い。アメリカのデジタル AV はまだ普及していないがこれから普及が始まる。
  • アメリカではノートよりスリムトップ（液晶省スペースデスクトップ）が評判。
  • 家庭用 PC は２極化する。安いだけの雑貨 PC（Commodity PC）と付加価値 PC に分かれる。VAIO は後者。
  • ソニーは MD 編集機能などを搭載（Audio）し、テレビ録画機能を搭載（Video）してきた。
• テレビ録画機能（Giga Pocket）について
  • 今回投入したテレビ録画機能（Giga Pocket）は HDD レコーディングなのでランダムアクセス可能。
  • 録画方式は MPEG2。簡易編集も可能。
  • インターネットのテレビガイドのホームページ情報からの予約録画も可能。
  • 今は CD-RW ドライブしか搭載していないので保存には VTR テープが現実的。（CD-RW には低画質モードでも1時間分しか入り切らない。）
  • テープ管理に2次元バーコードを活用できる。（うーん。ちょっとこじつけ。）
  
  
• サブノートについて
  • 日本のサブノート市場は VAIO 505 登場（97/09）以来6倍になっている（99/05現在）
  • そのうちソニーは50%以上のシェアをとっており、瞬間では62%までとった。
  • VAIO を真似たノートがたくさん登場したがヒットしておらず、オリジナリティがないと売れないことは明確。
  • 売れた原因は銀パソと呼ばれるデザインではない。アップルの iMac も同じ。
  • インテルがデザインを強調したコンセプトモデルを出しているが、デザインは機能優先であるべきでいたずらに形を変えたり色をつけても売れない。
  • VAIO XR はジョグダイヤルを採用し、CPU 放熱機構を搭載している。機能から必要とされたデザインだ。この放熱機構はインテルからも「その手があったか」と驚かれた。（ノート PC の CPU 熱対策は大きな課題だった。）
  • ジョグダイヤルもいろいろなアプリケーションと連携しており、新たな提案をしている。
  
  
• これからのキーワード
  • これからのキーワードは「つなぐ」である。
  • インターネットへの接続の可能性は無限である。
  • MP3プレーヤもコピーガード規格が7月に決まるので普及するだろう。著作権問題がクリアされればMP3プレーヤは売れる。99/末までに100万台は売れるだろう。
  • 今でもインターネット上に MP3データが50万曲あると言われている。（多くが著作権違反なのは残念だが）これが大きなマーケットになる。ソニーはこういう製品は得意だ。（参入するのか？）
  • 「テレビ」のチャネルも増えてきた。これからこれが爆発的に増える。
    • 70年代は地上波のみで3大ネットワーク（ABC、NBC、CBS）のみの3チャネル
    • 80年代はCATVも加えて30チャネル
    • 90年代は衛星放送も加えて300チャネル
    • 2000年代はインターネットも加わって無限大のチャネルが誕生する。
  • 通信もデジタル化が急速に進んできている。
    • 米国……PC普及率50%、デジタルセルラー普及率8%（注：アナログセルラー含まず）
    • 西欧……PC普及率40%、デジタルセルラー普及率28%（北欧のみなら GSM の普及率は40〜50%）
    • 日本……PC普及率38%、デジタルセルラー普及率34%
    • 日本は面白いことに両者のバランスがとれている。この２つを「つなぐ」ことができれば新しい市場ができる。
  • PDAもターゲットにしている。これも通信のキーデバイスになると思われる。
  
  
• その他
  • （この講演の中で PC の世代交代が3ヶ月であり、昨年カメラ付きの VAIO C1 を早くアナウンスし過ぎて他社に先を越されそうになったと皮肉をおっしゃっていた。ここではあいまいな表現だが何か開発しているようだ。）

• Acrobat はたった2年で爆発的に普及し、電子ドキュメントのデファクトスタンダードになった。
• Acrobat は電子校正、電子決済、などに広く使われる可能性がある。
• 新バージョン（4.0）の改良点は以下の通り。
  • PDF 内のテキストを直接編集可能（タッチアップツールを使用）
  • 電子署名に対応
  • gif、jpg などの画像ファイル、スキャン画像、Web ページを直接 PDF ファイルに変換可能
  • Web ページの変換ではリンク情報をすべて保持して PDF にできる。
  • フォントパックを追加すれば欧文環境でも2バイトの日本語 PDF を表示可能。
  • フォントの埋め込みも可能（可能なフォントには制限があり、プロテクトされたフォントは埋め込めない）

• Windows 2000 は開発中だが、「Windows 2000 Ready PC」を並べて PR していた。
• 当初、Windows 2000 は Windows 98 と Windows NT を統合するはずだったが、そうではなかった。純粋な Windows NT の後継 OS になっていた。
• それなら Windows NT 5.0 とか呼べば良いのだが、そこがマイクロソフトのマーケティングの上手いところだ。今ではほとんどのソフトウェアがバージョン番号を止めて年表示で製品を区別している。ボンダイブルーの周辺機器が増えたことと同じような影響をマイクロソフトも与えているのだ。これは余談です。
• 統合が断念されたのは Windows 2000 の動作する PC のスペックが高すぎることとドライバ類が揃わないことが原因だと言われている。Windows 98 の Windows NT への統合はもう少し先になる。
  • アップルの例を見れば良くわかるが、OS 開発は簡単ではない。アップルは Copland の開発に失敗し、危うく潰れるところだった。大マイクロソフトであっても同じことだ。確かにオープンソースの Linux（UNIX ベースのパソコン用 OS）は脚光を浴びているが、あくまでもプログラムに精通したプロやセミプロ用であり、我々ビギナーには関わり無い話だ。
  • 私はアップルの Mac OS 計画を信用していない。OS は製品版がリリースされるまでは信じないことにしている。かつてのアップルにイヤというほど思い知らされたからだ。マイクロソフトも同じである。Windows 200x にマイクロソフトの OS が一本化されるのは当分先だと思った方が良いと思う。
  • もちろん Windows 3.1/95/98 系列は MS-DOS をベースにしているので早く Windows NT 系列に統合されることが望ましい。トラブルが起こった時に「ああ、MS-DOS だ……」と思い出さされることはなつかしいが悲しい。Windows NT が Mac OS より遥かに安定した OS であることには間違いがない。早く統合されることを期待したい。

• 今回はマイクロソフトの独壇場であり、他社は影が薄かった。
• 会場もそれほど広くなく、展示社数も少なかった。やはり不景気が影響しているようだ。
• Office 2000プレインストール PC をならべるだけのブースは退屈。ソニーが一人勝ちするのがわかる。唯一の例外は東芝で DynaBook 10周年でさまざまなモデルを展示していたが、「使い方」の提案はなかった。ソニーは MD 編集、テレビ録画のほかにもさまざまな使い方を提案しようとしていた。
• 「CD-RW パビリオン」という「CD-RWは素晴らしいですから使ってみましょう」という啓蒙目的のエリアがあったが、来場者の関心はあまり高くなく、打ちあわせテーブルで休憩する人が目立った。各社が最新のドライブを展示しステージでも PR をしていが、残念ながら CD-RW はまだ認知されていないようだ。