2010/08/31
ニコンの進化を振り返る〜D200発売からまる4年、D300sの真価に迫る〜 (阿部秀之氏) CP+ 2010 ニコン・ステージ
- 実は今年のCP+のレポートで書きかけたままお蔵入りしていた記事がある。時期を逸してしまっていたのだが、この機会にアップしてみたい。ネットでの一般ブロガーの最近のデジタルカメラに対する残酷な評価についてちょっと物申したいからだ。私はキヤノンのカメラは好きではないが、EOS 50Dから正常進化して登場したEOS 60Dを「サプライズが少ない」と酷評するのはいただけない。
- ブログの普及によって誰もが自由に自分の考えを表現できるようになったのは良いのだが、その内容はまさに玉石混淆である。そして、残念ながら「石」がほとんどなのだ。まあ、素人なのだから仕方がないが、良い年をして幼稚な考えをヒステリックに書き連ねるのは哀れである。フォーサーズファンの有名ブログも「改宗」してしまい、「オリンパスはフォーサーズから撤退する」と毒を吐きまくっている。ダークサイドに堕ちるとここまで醜くなるのかと心が寒くなってしまう。
- さて、製造業に関わるものなら簡単にわかることだが、製品の進化には黎明期、成長期、安定期、衰退期、というような段階がある。デジタル一眼レフカメラはどの段階にあるのか……その答えがこの阿部氏のステージにはあったのである。
- 「ニコン最強のセールスプレゼンター」である阿部秀之氏のステージは今年も非常に面白く、有意義だった。彼のステージではデジタル一眼レフのとても根本的なことが聞けるのだ。ニコン以外のカメラにも良く当てはまる彼の話はニコンに特化していなければお金を取れるレベルのものだと思っている。
- さて、その内容だが、フィルムカメラと比べてデジタルカメラのモデルチェンジのサイクルの短さをテーマにしたものだった。ニコンのフィルム一眼レフカメラでは1980年3月にF3、1988年12月にF4、1996年10月にF5と約8年サイクルでモデルチェンジが行われてきた。しかし、ニコンのデジタル一眼レフカメラでは2005年1月にD2X、2006年1月にD2XSと1年でモデルチェンジしている。これは非常に短く、いつニコンの一眼レフカメラを購入したら良いか迷ってしまうというユーザもいるというのだ。
- 阿部氏はデジタル一眼レフカメラをカメラ部とデジタル部の2つに分けて説明した。阿部氏によるとニコンのデジタル一眼レフカメラはD200で完成している。そのため、D200のカメラ部は4年経っても時代遅れではない。しかし、そのデジタル部は陳腐化しており、現行のD300sに比べるとやはり2世代前のカメラ相応のレベルでしかない。ここで言うデジタル部とは画像処理を行うイメージセンサーと画像処理エンジンのことであり、カメラ部とはオートフォーカスセンサーや測光センサー、シャッターユニットなどのことである。阿部氏はデジタル一眼レフカメラではカメラ部はほぼ完成域に達しており、今後は大きな進化は望めないものの、デジタル部分にはまだまだ進化の可能性があるとしている。
- 阿部氏はF3以降のニコンのフィルム一眼レフカメラが8年間もの間モデルチェンジをしなくても良かった理由の1つに「フィルムの進化」をあげている。もちろん、この間にフィルム一眼レフカメラはオートフォーカス化などの進化をとげており、その時間が必要だったというなどの側面もある。ただ、阿部氏はフィルムが進化し続けたことでカメラボディがそのままでも良い写真を撮り続けることができたと説明していた。つまり、フィルム粒子の微細化、感度アップ、彩度アップなどによって写真が良くなっていったのである。フジフィルムを例にすれば、Super HG、REALA、Velvia、などエポックメイキングなフィルムがたくさん製品化されているのだ。そして、これは現在のデジタル一眼レフカメラにおけるイメージセンサの高画素化、高感度化、画像処理エンジンの性能アップと同じだと阿部氏は続けた。
- 具体的には、D200に比べて2世代後継であるD300sは高感度特性が向上している。D200はISO200〜1600(実用は800まで)だったのに対しD300sはISO200〜3200(実用は3200まで)になっている。ノイズが低減され、写りが良くなっているのだ。これはイメージセンサがCCDからCMOSに変わり、画像エンジンのノイズ低減処理が良くなり、輪郭強調処理が自然になったことなどの技術向上のおかげだそうだ。
- さらに、D300sは1世代前のD3やD300からもシーン認識やホワイトバランスが進化しているらしい。阿部氏はこのシーン認識はニコンが力を入れている部分で3D-トラッキングなどのオートフォーカスの追随にも用いられている基幹技術としている。元々はフィルム一眼レフカメラのニコンFAで世に出たマルチパターン測光が進化したもので、今では当時とは比べ物にならないほど高精度・高性能になっているのだ。オリンパスは画像処理の進化をアートフィルタなどの方向に活路を見出したのだが、ニコンはパターン認識に力を入れているということだ。測光の精度アップにもつながり、前述の通り、オートフォーカスポイントの追随にも使える基本的な技術であるからだ。
- また、D3やD300からアクティブDライティングというシャドー部を黒くつぶさない画像処理(デジタル覆い焼き)が導入されている。これがAUTO化されて使いやすく改善されているそうだ。阿部氏曰く、「これに限らず、ニコンのAUTOはプロでも使えることを前提に開発されている」ので、ハイアマチュアユーザもバカにせずにAUTOでどんどん使ってみて欲しい、ということだった。
- 阿部氏のステージで思ったことはデジタル一眼レフカメラの技術は基本的に確立されたということである。今まではフィルム一眼レフカメラをデジタル化し、イメージセンサーや画像エンジンの改良を続けていた。しかし、それらは一段落したように思えたのだ。阿部氏は「ニコン最強のセールスプレゼンター」なので、従来機ユーザに対しても「カメラ部は十分に使える良いカメラ」とフォローしつつ、「D300sはデジタル部が大幅に進化しているから買い替えると良いよ」とアピールしていた。それは否定しないものの、私はかつてのカメラと比べるとD200からD300sのデジタル部の進化の幅は大きなものではないように思えた。イメージセンサーの高画素化が一段落した現状ではデジタル部もほぼ完成されたと思って良いのではないだろうか。