クロックアップは危険
Final Updated 1998/11/01
このページはApple Macintosh Centris 650をパワーアップするための情報を掲載しています。
この通りにして何らかのトラブルが起こっても保証の限りではありません。もし試されるのでしたら、みなさん個人の責任で行って下さい。
クロックとは?
- マザーボード上には水晶振動子という部品があります。
- この水晶振動子はクロックパルスを発生させています。厳密にはこの水晶振動子の周波数を分周したものがクロックパルスとしてマザーボード上の LSI へ供給されているのです。
- その LSI は基本的にクロックパルスに同期して動いています。これは、CPU だけではなく、ほとんど全ての LSI がそうなのです。このクロックパルスがあるからマザーボードは複雑な処理を行えるのです。まあ、オーケストラでいう指揮者みたいなものと考えて下さい。
- では、この水晶振動子を早いものと交換したり、分周比率を変更して、早いクロックパルスでマザーボードを動作させるとどのようなことが起こるでしょう?(これがクロックアップなのです)
どんな製品にも規格値とマージン(余裕)があります
- どんな製品にも規格値があります。これは LSI でも同じです。
- 例えば、自動車のエンジンの回転数には限界があります。レッドゾーン(危険回転域)を超えた回転数で動かし過ぎるとエンジンが壊れてしまいます。
- しかし、レッドゾーンを超えてエンジンをふかしてもスグには壊れません。これは多少のマージン(余裕)をもってレッドゾーンを設定してあるからです。つまり、レッドゾーンが5,000回転〜6,000回転の自動車の場合、実際の限界値は6,500回転とか7,000回転とか余裕があるです。
- このマージンをどれ位とるかというのは決まりはありません。5%の場合もあるでしょうし、30%の場合もあるでしょう。これは、メーカの考え方と、設計マージンと製造マージンから決まるのです。
- また、マージンを超えてもスグには壊れないものです。しかし、深刻なダメージが蓄積されることになります。
製品のマージンと歩留まり(ぶどまり)
- 良い製品というものは仕様が優れているというのは当然ですが、壊れにくいというのも重要な評価ポイントです。しかし、この2つはなかなか両立しないのです。壊れにくいためにはマージンがたくさんあることが求められます。もちろん耐久性も必要なのですが、半導体製品は可動部分がないので耐久性は考慮しなくて良いのです。
- しかし、マージンをたくさんとるということは簡単ではありません。
- 例えば、メーカが20%のマージンを持つべきだと考えたとしましょう。そうすると、設計者は20%のマージンを持って設計します。実際は25%位を目指すわけですが、早く製品化しないと他社との競争に負けてしまうので、ギリギリの20%位になってしまうのです。
- それを製造部門が作るのですが、製造時のバラツキというものがあります。これが10%あったとすると、最終製品のマージンは規格値に対し10%〜30%になります。
- 製品は最終テストされてから市場に出ます。最終テストの規格が製品仕様になります。最終テストでどれくらいの製品が合格するかは大変重要です。この合格率を歩留まりと言いますが、これをいかに高くするかがメーカの利益を左右します。同じ原材料から100個作れた場合と、200個作れた場合は、原価が2倍違うのです。
- 市場で受け入れられる価格というものは決まっています。たとえ歩留まりが低い(つまり、原価が高い)からと言って価格を上乗せするのは難しいのです。ですから、メーカはこの最終テストの合格率を上げるように努力するのです。一番簡単な方法は最終テストの規格を緩和することです。いくらなんでもマージンがゼロというわけにはいかないですが、10%ぐらいにすることはあり得ることです。
- 製造初期の製品にはマージンの少ないものが多いと思われます。それでも製品仕様(規格値)は満足しているので、使用上は何ら問題はないのです。
- そして、メーカは製造を行いながら製造工程を改善し、歩留まりを上げ、利益を増やします。そうすれば、製品価格の値下げもできるようになり、さらにたくさん製品が売れ、メーカは儲かるのです。
- こういう傾向は特に半導体製品(LSI)に強くあてはまります。パソコンなどの最終製品の製造工程はほぼ完成されているので、歩留まりはそれほど変わりません。しかし、半導体は日々技術革新が行われていて、製造技術も進歩しています。そのため、量産開始時は比較的歩留まりが低く、安定量産時には歩留まりが大きく向上していることがあるのです。パソコンがモデルチェンジ前に大きく値下げできるのは、半導体部品の歩留まり向上により購入価格が販売開始時よりも大きく下がっているからです。別にたたき売りをしているわけではないのです。
クロックアップすると……
- ここまで読んでいただいた方にはもう想像がついているでしょうが、続けます。
- クロックアップによってマザーボードのクロックパルスが早くなると、たくさんの LSI のうちマージンの少ないものから動かなくなっていきます。それが、CPU だったり、グラフィックコントローラだったり、メモリだったり、小さな IC だったりします。そしてパソコンの動作がおかしくなるのです。これは動かなくなると言うより、動作がクロックスピードに追いつかなくなるということです。先ほどのオーケストラの例で言うと、指揮者がスピードを上げて指揮すると、ついてこれない楽器奏者がでてくるということになります。演奏が難しい楽器の奏者から順に脱落していくでしょう。
- Macintosh Centris650 は 25MHz で動作しています。これを 33MHz にクロックアップするということは、30%以上高速にすることになります。これは安全なことでしょうか?
- 複数のモデルが同時にリリースされた場合、マザーボードは共通で、CPU のみでスピード差がつけられていると紹介されることがあります。これが本当なら、下位モデルをクロックアップすれば上位モデルと同じスピードにできるはずです。でもその際には CPU も入れ替えるべきでしょう。その CPU が何故低いクロックで動作していたのかを考えて下さい。早いクロックで動かすにはマージンが足りなかったからなのです。どんなメーカでもあえて低いスペックをつけて安く売るわけはないのです。
- さらに言うなら、同じマザーボードを複数のモデルで使っている場合でも、ボードのテストでランク分けをしているはずなので、上位モデルのボードと下位モデルのボードとでは微妙にマージンが異なっているはずです。
熱暴走の可能性
- さらにいうと、仮にクロックアップに成功し早いクロックでパソコンが動いたとしても安心するのは早いのです。
- LSI は全てそうなのですが、特に CPU は温度が上がってくると動作が遅くなります。LSI の中の信号が伝わる速度が温度に比例して遅くなってくるので、複雑な LSI ほど影響を受けるのです。
- CPU の回路を大きな駅と考えて下さい。列車はダイヤにしたがって運行されており、通常は乗り換え連絡などが順調に行われています。しかし、温度上昇によって一本の列車が遅れると、連絡するはずの列車は待たされます。これがあちこちで起こるのです。ダイヤは無茶苦茶になります。そして列車の運行はマヒしてしまうのです。これが CPU の熱暴走です。
- 規格値を超えるクロックで動かした場合、CPU の温度が通常よりも上がります。最初は無事に動いていても、時間がたつにつれて動作がおかしくなることがあるのはそのためです。クロックアップキットにCPU クーラーがついているのはそれを防ぐためなのです。
製品寿命を縮めないのか?
- LSI は可動部分がないので基本的には壊れません。しかし、それは規格値内で動作させた場合のことで、規格外で動作させた場合は違います。
- 余計な負荷が加わることにより、じわじわと痛めつけられていくのです。寿命が縮むことはもちろん破壊されることもあります。
- 壊れてしまったら修理はできません。交換するしかないのです。でも、LSI は黒いパッケージの中に固められているので、外観上は変化がありません。マザーボードをテストしてどれが壊れた LSI なのかを探すのは大変です。ですから修理ではなく、ボード毎交換されるのです。
- もう少し説明すると、どんな製品にも「初期故障期間」、「偶発故障期間」、「老朽化故障期間(?)」というものがあります。「初期故障期間」とは製造上の不具合で故障することで、半導体の場合、信頼性試験といって実際の使用状況に似せた試験でチェックしています。これをパスした製品が出荷されるのです。「偶発故障期間」とは、製品が安定して、ほとんど故障しない期間のことです。LSI の場合、メカ的な動作をしないので「偶発故障期間」がとても長いのです。そのため壊れないと言われています。パソコンなどの最終製品が壊れる場合はほとんどが可動部分が壊れます。LSI の方が先に壊れることはないのです。
- しかし、規格外で動作させるとこの「偶発故障期間」が短くなってしまうのです。ボディーブローのようにダメージが蓄積されてしまいます。ですから寿命が短くなってしまい、老朽化故障期間(?)」になってしまいます。本来は長く使える部品があっという間に寿命になってしまうのです。
私はクロックアップをお勧めしません
- このページを公開してから、たまにクロックアップの質問をいただくことがあります。しかし、既に述べたような理由で私はクロックアップを勧めません。パソコン雑誌などで興味本位で取り上げられているのは問題です。「各自の責任で行って下さい」という言葉を載せれば許されるのでしょうか?それはあまりにも無責任です。どうして危険なのか、何故リスクがあるのかを正しく説明すべきです。知らない人にとっては作業を失敗するリスクしか想像できないでしょう。実はクロックアップというのは成功する方がめずらしい、とてもリスキーなことなのです。
- 私は、Macintosh Centris650 に満足しています。新しいアプリケーションを入れずに古いものを使えば十分に快適です。このページは「Simple Text」で書いていますし、表計算ソフトは「Excel.4」です。メモリをたくさん割り当てれば「Netscape Communicator 4.01J」もちゃんと動きます。それで良いではありませんか。Power Application は動作しませんが、それは仕方ないことです。動かしたければ Power Macintosh G3 を買えば良いのです。
- あえて、今まで頑張ってくれた Macintosh にドーピングをする必要などありません。ドーピングというより、ドラッグ漬けでしょうか。マシンがぼろぼろに蝕まれてしまうのです。
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